早稲田日本語教育実践研究 第3号
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21田川恭識・渡部みなほ・野口芙美・小西玲子・神山由紀子/総合日本語クラスで日常的に音声指導を行うための教材開発に向けてそういうのを知っておければ,自分の基準があればいいのかなって。なんか全体像があればいいのかなって。(中略)中級だと違うとか。音声指導を行う上で,レベルに応じた到達目標の基準がわからないことを挙げ,その全体像を把握することが必要だと考えている。5―3.教師A・Bの意識と実践のまとめ及び考察以上から,教師A・Bの音声指導の捉え方や目標がそれぞれの実践にどう影響していたのかが明らかになった。Aは学習者が自分で気づき,意識することを目標に,学習者に考えさせるという方法をとった。教師Aは教材作成者でもあることから,各課の「ことばシート」で,どのような音声項目を指導するかという知識が前もってあり,これまでの教材の使用経験から,自分なりの指導方法を見出す余裕があったと考えられる。一方のBは, 楽しく学習できることを重要視し,実践においても学習者が楽しく音声に触れること目指したが,Bは「発音を教えること」を意識する一方,「ことばシート」が本来意図していた「発音の意識化」という方向性についての認識が不十分であり,指導において迷いが生じてしまったようである。しかし,A・Bともに,今後の音声指導について「何をどこまで指導するべきか」「レベル別の指導項目や指導基準」などの明確な提示が必要だと感じていることもわかった。以上,教師2名の実践記録とインタビューを分析・考察してきた。そこから,以下のような問題点が存在することが浮き彫りになってきた。まず,一つ目の問題点は,指導方法のコンセプトが不明瞭であったことである。筆者らは,音声教育に関する専門的な知識が無い教師であっても,無理なく指導が可能な教材であること,また学習者にとっても負担が少なく,教室場面を離れても自律的に音声に注意が向けられるようになることを念頭に教材の開発を行った。そしてその指導の方針として,音声を「教え込む」のではなく,「意識化」させることが最適であるという立場をとってきた。しかしながら「意識化」の概念の説明が不十分であったため,どのように指導するかがわかりづらく,指導にばらつきが出てしまった。教材を作成すれば,即,実践ができるというものではなく「何のために,どのように使うのか」が,教師に適切に理解され,実践されなければならない。そのためには,本教材を使用するにあたっての「意識化」の定義とその指導方法について,もう少し明瞭な説明が必要だったと考えられる。次に二つ目であるが,「時間がない」と言われることの多い総合日本語の中で「効率的に短時間で指導ができる」といったことに重点を置き過ぎたために,1回1回の授業時における本教材での音声指導のねらいや目的の設定が曖昧になってしまったことである。本教材の中で,今扱っている音声項目をどう取り上げ,何を意識させたいのかを,具体的に示すことが必要であった。例えば,「病院」と「美容院」など拗音の違いに気付かせることがその時間の指導項目だったとするならば,その点を教材に明記する必要があったと考える。また三つ目の問題点は,二つ目の問題点の前6.教師の実践・インタビューから見えてきた問題点

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