早稲田日本語教育実践研究 第3号
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Aは,組織として積極的に音声指導が行われていない現状に対し,疑問を持ち,指導へA:文法はわかんなくても教えるんだから,音声もちゃんと教えなきゃいけないん19田川恭識・渡部みなほ・野口芙美・小西玲子・神山由紀子/総合日本語クラスで日常的に音声指導を行うための教材開発に向けてることが窺える。また,Aの特徴として,学生の様子や具体的な誤用の記述の多さが挙げられる。なりたい教師像について述べた以下の言葉に注目してみたい。A:(昔はスケジュール通りにこなすだけで学習者一人一人を見ていなかった,という話をして)でも,そういうところを目指してるんじゃなくて,彼はこういうところがあんまりよくわからないみたい,それは彼の国ではこういうふうに言わないからとか。そこまで考えられないと,その彼自体の学習を見ることにならないと思うんだよね。そういうふうに考えているの。Aが学生の様子を具体的に記述していたのは,A が目指す教師像のように,一人一人の学習を見ようとしていたことも理由の一つと考えられる。Aは学生がクラスの中で何か一つでも新しい発見が出来るような授業を理想とし,一人一人にどのような学びがあったかを見られる教師を目指している。そのため音声指導においても,学生個別の反応にも注目し,学生自らが自身の発音に対して,気づき,考えることができるような指導を行っていたと考えられる。また,インタビューの最後に,今後の音声指導のあり方について,以下のように話していた。じゃないの?って。I:(ほんとにシラバスがないんだよね。)A:(中略)こういう大学みたいなところで,「教えてください」って言っていいんじゃないかなと思う。上から。文法に関してはこういうことをやってくださいって言うけど,(中略)発音っていうことももっと押さえておかなきゃいけないんじゃないの?って,やっぱり思う。(中略)この5年で何も変わってないってことだから。かなに関してはね。(中略)やってもやらなくてもいいみたいなことになってるでしょ?じゃあ具体的にどうしたらいいかっていう…そこまで考えてないけどね。の明確な指示が必要であると考えている。しかし,自身は具体的な解決策は持っていないようである。5―2―2.教師Bのインタビューから教師Bは「ことばシート」の使用モデルにある,2)の書き取りの前にリピート練習を入れ,かなり多くの回数を聞かせていた。書き取り後のFBや,指導の仕方などについて,当初から迷いが記述され, 以下からも,Bの中で教材を使用しての指導目標がうまく設定できずに,迷っていたことが窺える。B:最初の3分の1ぐらいは,どうしたもんだかっていう感じ。正直なところ,最初

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