17田川恭識・渡部みなほ・野口芙美・小西玲子・神山由紀子/総合日本語クラスで日常的に音声指導を行うための教材開発に向けて師Bの特徴として①指導法への言及が多く,②指導するポイントが絞り込めていない印5〜7回目になると,「一人一人に当ててもかなりうまく読めるようになってきた」「アクセントはかなり正確になってきた」と学生の変化を記している。自身の指導法については「(教師が)『ん?』というと,自分で訂正」「『モが高いよ』というと言い直すもうまく直せず」など具体的な実践を学生個人の反応とともに記述している。5―1―2.教師Bの1学期間の実践教師Bは学期中,7回「ことばシート」を使用した。1回目は意識付けを目指し,「高低アクセントはどんなものかを実感してもらうことを目標」としてアクセントについて紹介し,CDを聞かせ,リピートさせている。2〜4回目は,音を聞かせ,リピート後,ディクテーション,という手順でシートを使用した。5回目には自身の指導方法に疑問を感じたのか教師Aの記録にあった「まず学生一人一人に読ませてみる」という方法を取り入れている。6回目は他の指導項目に時間が必要だったため,「声を出させる意味で発音」させるのみ,7回目も時間が十分に取れず,リピートとCD を聞かせるのみを行い,「熱い」「厚い」について少し取り上げたと記している。学生については,3回目に「発音の段階でディクテーションをしてしまっている学生」の存在,「一度聞いただけでほとんどが書けていた」様子を記し,4回目には「ディクテーションが苦手だった学生も今日は結構書けていた様子。促音なども(さっき等)問題なかった」と具体的に記述している。指導法を変えた5回目には,単語レベルでは想像以上にうまく読めているが,「文になると本当にわかりにくい。どう指導する?」と学生の問題点とともに指導法について自問している。7回目には「少し意識して読む学生が増えたような…?でも,あまり高低の違いがわからない子が多い」と曖昧ながらも学生の変化について記している。自身の指導法については,実践初期に「FBをどのようにするか課題が残る。回収して傾向を見る→FB,が理想だが,時間の都合上難しいか」と記し,5回目には,自身の指導法に疑問を感じ「自分はやっているだけという感じがして」と内省し,教師Aの「まず一人一人に読ませる」という指導方法を取り入れたと記述している。5―1―3.教師AとBの比較以上から,教師Aは①学生の反応についての記述が多く,②指導法への言及の少なさから見ても自身の指導したいポイントがある程度絞り込めていることが窺える。一方,教象で,③学生に求めることについても一貫性が見出しにくいという点が挙げられるだろう。このように教師A・Bを比較してみると,同じ「ことばシート」を使用しているといっても,その実践はかなり異なったものであることがわかる。そこで,次節では教師A・Bが音声指導をどのように捉え,その捉え方がどのように実践に表れていたかについて,インタビューの回答と合わせて分析する。
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