早稲田日本語教育実践研究 第3号
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16早稲田日本語教育実践研究 第3号/2015/9―245.「ことばシート」使用の実態調査−2名の教師の実践そこで,5節では実際に教材を使用した教師2名の実践記録と,インタビュー調査の結果について分析,考察する。2名の教師は1学期間に渡り「ことばシート」を使用したが,その実践のあり方や考え方はかなり異なるものであった。2名の実践をみることで,教材および教材を使用した際の問題点の改善につなげることができるのではないかと考え,調査を行った。以下,調査の概要と結果について述べる。5―1.実践記録からみる実践本研究で調査対象とした被調査者A・Bは,ともに音声学や音声教育について専門的に学んだ経験はないが,教師Aはシート作成当初から携わっており,教材作成者でもあった。一方の教師Bは本実践調査から参加した。教師A・B ともに日本語母語話者で,海外で日本語教育に携わった経験があり,また英語以外の外国語学習経験がある。日本語教育歴については,教師Aは約10年,一方の教師Bは約3年である。本研究ではこの2名が記録した,2013年秋学期(2013年9月〜1月)のクラスでの教材使用の記録(指導の流れや気がついた点等)と,学期末に実施した,各教師の実践及び音声指導の経験や考え方などに関するインタビューの回答を分析した。実践を行ったクラスはいずれも総合日本語2の中の異なるクラスであり,各クラスの学生数は8名であった。教師A・Bには,毎回の授業後,自由記述で教材の使用法や気づいたことについて記録してもらった。実際に記録されたものは,主に学習者の反応や指導法についてであった。また,教師A・Bは学期中,互いの記録を見ながら,クラスでの実践について話すこともあった。5節では,まず,教師A・Bの実践記録から,実践の内容について整理する。そして,6節で教材が抱える問題点について考察する。5―1―1.教師Aの1学期間の実践教師Aは学期15週間のうち,10回「ことばシート」を使用していた。1回目は,日本語には高低アクセントがあり,意味の弁別があることを「雨と飴」を例に提示,韻律記号の見方を紹介している。その後,シートを3節で示した使用モデルの手順で使用した後,教師のリピートに頼らず,学習者自らに読ませたりもしていた。2,3回目もほぼモデル通り行い,尾高型のアクセントや拍の長さなど,学生に読ませて気になった点を取り上げ,練習させていた。4回目からは,既に当該課の新出語が導入済みだったため,3節で示した「ことばシート」の使用モデルとはやり方を変え,まず学生にシートの単語を読ませてみた後に書き取りを行っており,それ以降は最後までその手順で実践を続けている。学生の反応については,初回時,アクセントについて知っている学生も多いと感じる一方で,熱心に目で追いながらも自信なさそうに読む学生の様子を記している。2,3回目になると,「考えて楽しそうに読んでいる」「見て高さがわかっても,理解の通りに読めないという感じ」,(長音,促音の拍の数え方を見せた後)「『あぁ〜!』『へぇ〜』『そうか…!』という反応」などと学生の様子を具体的に記している。手順を変えた4回目には「中高を頭高や平板に読む間違いが目立つ」と記述し,正しい発音を示して練習させている。

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