15田川恭識・渡部みなほ・野口芙美・小西玲子・神山由紀子/総合日本語クラスで日常的に音声指導を行うための教材開発に向けて・発音の間違いを指摘すると,学生自身がシートを見直して考えて再挑戦することができる・かなと音に意識的になれる。アクセントがあること,きいている音と書いた文字が違う,書きたい文字がかけない,などに気付けるから・アクセントやイントネーションが正しく身につく。間違いをなおせる。ひらがな(ふりがな)が正しく書けるようになる4―4.アンケートのまとめと問題点以上,学習者と教師のアンケート結果から「ことばシート」の使用によって学習者の音声に対する意識化が進み,主観的な判断ではあるが学習者に良い効果があったことが窺える。しかし注意しなければいけないのは,総合日本語1・2担当教師全体から見れば,教材を使用した教師は総合日本語1・2を担当する50名程度の教師のうち,春学期で11名,秋学期は9名というように,教材を使用しなかった教師の方が多いということである。「ことばシート」を使わなかった理由については,春学期では「シートの存在を知らなかった」と回答した教師が4名,「時間がない」が5名,「使い方が分からない」が3名というように,「ことばシート」の存在と使い方についての周知が足りないことを示唆する回答がみられた。そこで「教師用指導書」を作成し,秋学期から学期開始時に教師向け教材説明会を3回実施したが,結果として秋学期に「使用した」と回答した教師の数は伸びなかった。では,総合クラスを担当する教師は音声指導を行う必要は無い,と考えているのだろうか。「ことばシート」に関連して,教師向けのアンケートでは音声についての教育観を聞いているが,それによれば総合クラスの中で音声教育を「必ず行うべきだと思う」「行った方が良いと思う」と答えた教師が春学期で24名中17名,秋学期で11名中10名であり,アンケート調査に答えた教師のうち多くの教師が総合クラスで音声指導を行う必要性を感じていることが窺える。また「学習者の発音で気になるところは何か」という自由記述の質問に対して「イントネーション(6名)」「特殊拍(6名)」「アクセント(5名)」についで「清濁(5名)」「な/ら(の混同)(4名)」「母音の無声化(2名)」「つ・ちゅ(の混同)(1名)」「h音の脱落(1名)」などにも言及した回答があった。このことから教師は個々の学習者の発音の問題点について認識していると推測される。しかし一方で,音声指導については「どう教えていいか分からない(6名)」「うまく指導できていない(4名)」と回答した教師もおり,筆者らが最初に挙げた,総合クラスで音声指導が行われにくい原因の二点目である「指導したいと思っても方法がよく分からない」という声と同様の回答が得られた。総合クラスでは,様々な背景を持った教師が授業を担当することが多い。このような背景を踏まえ,筆者らは教材の開発に当たって音声学や音声教育を専門とする教師と,そうではない教師がともに開発に携わることにより,音声が専門ではない教師にとっても十分に使用が可能な教材になるよう配慮した。またクラスの中で普段の教材と共に,短時間で誰にでも使用可能なものを目指して開発し,周知に努めてきた。しかしながら,開発メンバーが想定したように使用者が増えていかなかったのには,総合クラスで本教材による音声指導を行う上で,何らかの問題点があるのではないかと考えられる。
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