2)「かきとりシート」の穴抜き部分を聞きとり,書き入れる11田川恭識・渡部みなほ・野口芙美・小西玲子・神山由紀子/総合日本語クラスで日常的に音声指導を行うための教材開発に向けて3.「ことばシート」の概要くことを目指した。なお,ここで言う「意識化」とは,音声指導を通して,学習者が「日本語の発音」の特徴を捉え,自身の発音について考えたり,その問題点について気づいたりすること,また,発音についての重要性を認識していくことを指している。この「意識化」を促進することで,たとえ教室場面でなくても,学習者自身による自律的な発音の修正が可能になると考えた。さらに最後の3)については,授業の主教材を活用して音声指導を効率的に行うこととした。その結果,作成したのが「ことばシート」および「教師用指導書」である。以下,開発した教材の概要について述べる。以上のように,筆者らは教材開発に当たり音声指導を総合クラスの授業活動の中に位置付けることとした。それを受けて,まず総合クラスの中でどのような授業活動が行われているかを検討した結果,新しい課に入る際に行われる新出語彙の確認の時間に音声指導ができるのではないかと考えた。その結果,生まれたのが「ことばシート」である。「ことばシート」は表裏2面で構成され,表面の「ことばシート」,裏面の「かきとりシート」で構成される。基本的な形式は教科書に準拠している文法解説書(英語版)に類似し,左段は課に出てくる単語の仮名表記,中段が漢字仮名交じり表記,右段は英訳となっている。ここまでは解説書とあまり変わらないが,仮名部分に語のアクセントのマークと,フレーズのイントネーションを示す点線が付与されている点が特徴として挙げられる 3)。アクセント情報やイントネーションをどのように表示するかについてはさまざまな方式があるため議論の余地があるが(磯村2009),音声学,音声教育を専門とする開発メンバーとそうではないメンバーとで検討を重ねた結果,見やすさを重視し,アクセントについては声の高い部分に上線を引いたうえで声の下降点にカギ状の印をつけること,また後者についてはイントネーションとして声の高さの変化パターンの概形を点線で模式的に記すこととした(図1)。これらのアクセントとイントネーションの表示については,総合日本語1向けの教材には英語で,総合日本語2向けの教材には日本語で,簡単な説明を付与した。一方,裏面の「かきとりシート」にはこれらの韻律情報や英訳が無い。また左段には言葉の一部分が空白になっている所があり,付属のCDや教師の読み上げ音声を聞き,空白部分に学習者が聞き取った音声を文字で書くようになっている。空白部分は主として学習者の音声で問題となる要素(特殊拍,有声・無声,破擦・摩擦音,母音連続など)(助川1993他)が対象となっている。これにより,学習者にとって注意が必要な音声的要素に,自然と注意が向くように意図した。以下に,具体的な使用のモデルを挙げる。所用時間は大体10分程度を想定している。1)「ことばシート」を見ながら,CDや教師による読み上げ音声を聞く3)「ことばシート」を見て,答え合わせ4)適宜,口頭練習など
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