早稲田日本語教育実践研究 第3号
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9要旨1.はじめに田川 恭識・渡部 みなほ・野口 芙美・小西 玲子・神山 由紀子「自然な発音・イントネーションで話す」ことへの日本語学習者のニーズは高いが(日本語教育学会コース・デザイン研究委員会1991),「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を扱ういわゆる「総合日本語」のような授業では,音声について明確な目標をもとに指導されることは少ないようである。日本語による音声表現の力を磨きたい学習者は,音声に特化した授業を履修することも多い 1)。しかし,所属機関でそのような授業が開設されていて,なおかつ自身で受講する学習者は良いが,そうではない場合は音声の指導を受ける機会は少なくなる。音声に問題を抱えている学習者は指導を受ける機会が少なく,その後音声に問題を抱えたまま学習が進んでしまい,修正が難しくなる可能性も考えられる。このような問題を回避するためには,総合日本語クラスでも日常的に音声を指導していく必要があるが,後述のように様々な要因により難しい現状がある。筆者らは,総合日本語クラスにおいて無理なく日常的に音声指導が可能になるよう,音声指導のための補助教材の開発と実践に取り組んでいる。本稿では,筆者らが開発した教材の概要について述べるとともに,教師と学習者を対象に行ったアンケート調査の結果を報告する。アンケート結果を受け,実際に教師が本教材を使って行った実践の記録の分析と教師へのインタビュー調査を行い,教材の抱える問題点とその改善について考察する。またそれらを踏まえて,総合日本語クラスにおいて求められる音声指導の在り方について,提案を行う。田川恭識・渡部みなほ・野口芙美・小西玲子・神山由紀子/総合日本語クラスで日常的に音声指導を行うための教材開発に向けて早稲田日本語教育実践研究 第3号 「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能の向上を目指すいわゆる総合日本語クラスにおいては,日々の授業の中で音声指導が十分に行われていない。その背景には,総合日本語クラスでは時間が無いことや,担当する教師の音声指導に対する意識の問題,総合日本語クラスに適した音声指導用の教材が無いことなどが挙げられる。そこで筆者らは日々の授業で音声指導が無理なく行えるよう,総合日本語クラスの特性を踏まえて音声指導用の教材を作成した。教材については教師と学習者の双方から一定の評価が得られたが,実際の教材を使用した教師の数は少なかった。その原因を探るため,使用した教師がどのように実践を行ったのかを探ったところ,教材の使用方法や指導に対する考え方に違いがあることが分かった。その原因として,音声指導に対する指導目標や到達目標の不明瞭さが浮かび上がってきた。キーワード:音声指導,総合日本語クラス,音声教材,意識化,実践記録【論 文】総合日本語クラスで日常的に音声指導を行うための教材開発に向けて―初級日本語クラスにおける実践とその問題点―

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