早稲田日本語教育実践研究 第3号
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6早稲田日本語教育実践研究 第3号/2015/3―74.学習環境の整備―リソースと場―進めています。しかしながら,こうした「細やかな対応」は得てして対症療法的な対応に陥りがちといわれます。そうならないためには,カリキュラムとしての「安定性」を確保すると同時に,5年後10年後を見据えたグランドデザインのなかに「細やかな対応」をプログラムとして位置付けていくことが求められています。日本語教育のためにCJLが準備しているものとして,教員と教室,日本語プログラムの他に「チューター制度」「日本語授業ボランティア」,そして「わせだ日本語サポート」があります。教員や教材だけではない「リソース」,教室だけではない学びの「場」も,留学生の増加と多様化を支えるための重要な学習環境として,整備を進めています。「チューター制度」は課外にチューターが学習者の日本語学習を補うもので,総合日本語科目の学生が対象です。担当教員とコーディネーターが学習者の様子を見て計画し,日本語教育研究科の大学院生がチューターとしてキャッチアップにあたります。「日本語授業ボランティア」は,本学の学部や大学院の学生がCJLの募集に応える形で,広く参加することができます。所属や専攻は問われず,授業担当の教員が計画した活動に,ボランティアとして参加します。具体的な活動内容やボランティアとしての役割は参加するクラスによって様々ですが,ディスカッションやプロジェクト活動に参加するなど,日本語使用者としてまた同じ学生として,留学生の日本語学習を支えます。そして,2011年度に開設された「わせだ日本語サポート」では,1)日本語学習に関するアドバイジング 2)日本語学習に関する情報の収集と提供 3)日本語に関する質問や相談がなされています。チューターやボランティアと異なるのは,留学生が自らサポートの場(22号館3階WILL)に出かけていく必要があるという点です。スタッフは日本語教育研究科の大学院生で,来訪した留学生一人ひとりの日本語学習の問題について一緒に考え,一人ひとりに合った学習を進めていくための支援を行っています。目指すのは,留学生が自律的に自分の日本語学習を行っていけるようになることです。これらの体制や仕組みは,教室での日本語学習を側面から支える活動と位置付けることもできますが,実は,それだけにはとどまらない意義が見出せます。ここまで,2014年度に向けてCJLが整備してきた教育内容は,外国人留学生の増加と多様化に対応するものだと述べてきました。しかしながら,この多様化の内実を見たとき,「日本語学習が必要なのは誰か」つまり,「日本語教育は誰のためのものか」を検討し直す必要があるとわかります。日本国籍を有する日本語科目履修生がいたり,留学生への日本語支援の文脈で自身の学びを深める日本人学生がいたりするからです。全学的な教育機関としてのCJLは,日本語教育の専門性を全学の教育に役立てることができるのか。「リソース」と「場」をキーワードに,日本語教育への参加者として,外国人か日本人かという境界を取り払うことで,答えが見えてきているのではないでしょうか。

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