早稲田日本語教育実践研究 第2号/2014/65―795―3―3.躾けられた人間として見せたい普通体を使いたいという気持ちと同時に,キムは「私はせめてですます形で言った方が何かちゃんと躾けられた人間だなあという,(中略)そういう印象を」与えたいという意思も持っている。その理由について,「ほかの中国の方はいつも先生にも何か普通体で言ってるんですね。韓国人は結構年に敏感と言うか,だからかなーっていう。」と,韓国語の影響に言及している。そして,「年下でも,何か本当に何か子どもでなければ,高校生とか本当に何か年が離れた時,あの,そういうことではないと,なければ,たぶん私は何かですます体を使おうと思います。はい。後輩が入ってくるとしても,ですます体がよいかなと思います。」と結論付けている。何も考えずに丁寧体を使用するのではなく,自分はどうありたいのかを自分なりに考えた結果,丁寧体を使おうと決意した。これは,授業によってスピーチレベル観に揺さぶりをかけることができたからであろう。5―4.王王は47歳の博士3年生の学生である。台湾の日本語学校に1年間在籍していたが,授業に出席していたのは数か月であり,文法を中心に勉強したという。その頃は会話がほとんどできず,会話能力は日本に来てから自然習得したとのことである。ワークシートでは,スピーチレベルについては台湾の日本語学校で勉強し,普通体は友達と話す時や日常生活全般において,丁寧体は先生に対して使用すると記述していた。丁寧体を使用すると話が長くなるので,普通体の方が簡単だ,会話が短い方が緊張しなくてよいとのことであった。5―4―1.丁寧さを考えてから話す授業を受ける前は,「前はね,頭の中にたぶん何も考えなく,ぐるぐるしゃべりました。」というが,授業を受けた後は,「自分のスピードね,日本語話すのスピード,ちょっと遅めで,考えて,これは丁寧,これは丁寧じゃない。こういう考えて。」というように,丁寧さを考えてから話すようになったという。例えば,インタビューの直前に,スーパーで買い物をした際,「あ,すいません。今日カードを忘れました。」と言ったが,もし授業の前であったら,「あ,忘れた。」と言っていたという。考えることにより,話すスピードは遅くなったが,5―2―1の馬と同様,あえて遅くし,考えることを優先しているといえる。5―4―2.授業外で意識化しにくい理由考えてから話すようになったことに対し,「これの方が日本語ちゃんと勉強してる。昔たぶんね,あまりそんな考えてない。だから進歩してない。いつもどうして2年か3年か,もうそろそろ3年か,あまり日本語そんな進歩して,たぶんこのせいかなあ。」と述べた。今まで考えずに話していた自分を振り返り,進歩しなかった原因がそこにあると考えている。そして,授業を受けたことに感謝し,「留学生外国人ですからずっと分かりません。どうして日本人そういう風に,どうしてどうして,クエスチョン,クエスチョン,クエスチョン。でももしね,日本の友達ちゃんと教えて話して,向こうはね本当に理解できます。感謝します。」と述べていた。日本人がどうしてそのように話すか,という「会話者意識」は,日常生活では知ることが難しい。授業でそのような「会話者意識」を知ったことに,76
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