早稲田日本語教育実践研究 第2号/2014/65―795―2―2.丁寧体で話す授業を受ける前は,普通体のほうが簡単で,慣れているため,「「見てない」とか,それは止まって。(筆者注:「見てないです」のように最後まで言わず「見てない」で止める。)あとは「見たいです」の「です」を忘れてしまいますのこともあります。」というように,意識していない場合には普通体になりやすかったという。しかし,現在は「「です」を付けての方がよいと思います。」と述べている。「例えば自分は緊張した,緊張する時は,ですます時々忘れてしまいましたけど,今はちゃんとこのままで頑張ってですますを使っています。」というように,丁寧体を使うよう心がけるようになった。具体的な場面を挙げれば,先日一人で日光を旅行した際,何度か道に迷い,交番の警察官や見知らぬ観光客に道を聞いた際や,ロープウエイで一緒になった見知らぬ人と話した際に,「です」を付けて最後まで言うよう心がけたという。授業で学んだことをもとに,日常生活の中で,具体的な相手に対して積極的に試行錯誤している様子がうかがえる。5―2―3.丁寧体を使いたい理由丁寧体を心がけるようになったのは,「それは丁寧な,イメージはよく,よくなるの感じと今は考えています。」との理由からである。これには,授業の会話2リザの「会話者意識」7)が影響しているという。「この女の方(筆者注:リザ)は最もこの,あ,それは注意しなければならない,のこれは急に注目しました。リザさんの,これはずっとですますを守って,これはマナーという感じになります。」と述べた。授業で扱った「会話者意識」が,馬の意識に変容を与え,日常生活におけるスピーチレベル使用にまで影響を与えたといえる。5―2―4.普通体使用と交友範囲普通体の使用については,「ある時はたぶん普通体を使ったら相手の気持ちはどうなるか分からないですけど,だからですますを守らなければならない,の方がいいと思います。」と述べた。その理由を「冗談かけた時は普通は普通形に使いますよね。でもどのぐらい,どのぐらいはこの相手は我慢できるは,それはまだ分からないです。」と述べている。来日して1カ月しか経っていない馬は,「日本に来たばかりなので,とてもこのよく知り合いはあまり多くないです。」というように,人間関係の広がり,深まりがまだない。そのため,普通体を使う相手があまりいない。これが,普通体使用の制限に影響を与えているといえる。教室外の交友範囲とスピーチレベル学習との関連については,今後考えていきたい課題である。5―2―5.人間関係の捉え方に関する疑問さらに,「同じクラスメイトで,例えば年は私の下なので,でもこれは勉強する期間は私よりは長くなります。その時はそれは上の方になる,なりますか?あるいは私が年上の方がよいと思いますか?それはちょっと困っていますけど。」という疑問が生じていた。これは,人間関係を年齢だけで短絡的に判断するのではなく,勉強する期間,つまり学年も含めて捉えようとした結果である。人間関係を主体的且つ多面的に捉えようと心がける74
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