早稲田日本語教育実践研究 第2号
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田所希佳子/「会話者意識」を用いた意識化促進のためのコミュニケーション教育より簡単だと考えているのかは人によって異なるということである。フォーリナートークとスピーチレベルの関連に関しても,授業では触れなかったが,発展的な学びが起きたといえる。5―1―4.日常生活では内容が重要,表現形式に注目できないフォーリナートークによるスピーチレベルの調整に対し,「私あまり大丈夫。キーワードを聞きますから。みんなも私のキーワード聞きます。」というように,大丈夫だと判断していた。その理由は,「たぶんあの日常会話の時に相手の,あの言うことがもっと気づけます。そして言葉が時々あまり気づけません。」という発言から分かるように,日常生活では,自分も相手も,意思疎通のために内容を理解できるかどうかが最も重要であり,表現形式はそれほど重要ではないと考えているためである。日常で注意を払いにくい表現形式を客観的に扱い,意識化促進させることができるのは,教室の特長であるといえる。5―1―5.自分が使うのは丁寧体話し手としては,「私いつもます体を使っています。」というように,使い分けをするには至っていない。その理由として,「習慣です。たぶん日本語がよくなると普通体をどんどん使います。」と述べ,今の自分の日本語レベルでは,普通体は使わなくてもよいと判断している。さらに,「まだ相手は先輩かどうかわかりませんから。初対面の人だったら,相手はもし先輩だったらまずいなーと思います。」というように,相手の属性などが分からないうちは,無難に丁寧体を使おうとする意識がうかがえる。5―2.馬馬は,中国の大学で4年間日本語を専攻し,1か月前に来日した。現在,大学院の研究生として日本文学を研究している23歳の中国人である。学部時代,丁寧体から学習したが,日本語専攻の中国人同士で普通体をよく使っていたため,普通体の方が楽であるという。また,来日後は日常会話をすることにより徐々にスピーチレベルについて学んでいったという。ワークシートでは,「時々動詞語尾の変化は突然覚えないです。」というように,活用上の困難点について記述していたが,運用上の困難点は特に感じていないようだった。5―2―1.遅くなっても考えて話す授業を受けた後,「しゃべるの前はよく自分の脳内で考えて,この例えば今日表現したいこととか,文法とか,このマナーとかいろいろ考えなければならない,となります。」というように,考えてから話すようになったという。「たぶん話すのことは遅くなりますけど,でも練習すればもっともっと上手になるかもしれないと思います。」というように,話すのが遅くなったとしても,上手になるために考え,練習していこうとする様子がうかがえる。日常生活で,スムーズに意思疎通を行うためには,早く話すに越したことはない。しかし,授業を受けたことにより,考えながら話さないといけないという意識に変わった。意識化が促進されたといえる。73

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