早稲田日本語教育実践研究 第2号
76/102

早稲田日本語教育実践研究 第2号/2014/65―79馬,キム,王の4名について取り上げ,要約を述べる。引用箇所は「丸ゴシック体」で示す。5―1.張張は23歳の修士1年生である。日本の日本語学校で1年間日本語を学習し,1年1か月前に来日した。現在は日本語関連の授業は受講していないが,研究室の友人と日常的に話すことにより,日本語を練習しているという。また,来日後,中国から持ってきた中国語の教科書を用いて独学も行ったとのことである。ワークシートの記述によると,スピーチレベルは日本語学校の授業で勉強し,困難は特に感じていないとのことであった。研究室の友人に,教授には丁寧体ではなく敬語(尊敬語や謙譲語などの狭義の敬語)を使うよう注意され,それ以来,敬語に対しては問題意識を持っている。なお,丁寧体から勉強したため,丁寧体のほうが楽であるという。5―1―1.相手が使うスピーチレベルを気にするようになった授業を受けてから約1か月が経ち,相手が「丁寧語(筆者注:丁寧体)を使ったかどうかをちょっと気にします。前は全然気にしませんでした。」という変化について語った。例えば,研究室の先輩は張に対して普通体を使っているが,後輩も同様に張に対して普通体を使っていることに気づいたという。それに対し,「大丈夫と思います。仲がよくなって,みんなが普通体使ってると思っています。」と結論付けている。授業を受けたことにより,丁寧体や普通体に注目するようになり,後輩が先輩である自分に対してなぜか普通体を使っていることに気づいた。その理由を考え,仲よくなったからだと解釈し,大丈夫だと判断した。この一連の思考プロセスは,授業による意識化がもたらしたものであるといえる。5―1―2.場の改まりとスピーチレベルの関連に気づいたまた,「相手の話すの場所によってたぶん言い方も変わります。(中略)みんな飲み会をやった時に,先生いる時は丁寧語を使っています。そして先生帰る後で,あのいつも簡単体(筆者注:普通体)を使っています。」と述べた。同じ研究室のメンバーであっても,先生がいる時は丁寧体,いない時は普通体を使っていること,つまり,場の改まりによるスピーチレベルの使い分けにも気づきを得ていたといえる。授業中は,場の改まりに関しては触れなかった。しかし,張は周りの人のスピーチレベルに注目することによって,場の改まりによるスピーチレベルの使い分けを発見することができたといえる。5―1―3.フォーリナートークとスピーチレベルの関連に気づいた「日本人は外国人と話す時にたぶんもし相手の日本語レベルが低いたら,自分が思い,あの簡単な言い方で言います。たぶん一部の日本人は,あのます体(筆者注:丁寧体)の方が簡単と思います。あのほかの人は,あの普通体の方が簡単と思います。そして,あの私と話す時に,あの言い方も変わります。」と述べた。つまり,相手の日本人が張に対し,フォーリナートークとしてスピーチレベルを調整しているが,丁寧体と普通体のどちらが72

元のページ  ../index.html#76

このブックを見る