早稲田日本語教育実践研究 第2号
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齋藤智美・渡部みなほ・田所直子・川名恭子・田中敦子/総合的言語活動としての「日本語かきこ」N@viの利用が不便だというものである。既存のSNSに慣れている学習者にとって,確6.総合的言語活動としての「日本語かきこ」かにCourse N@vi上のBBS画面に辿り着くまでの手順が煩わしいと感じるのは仕方がないことだろう。この点については,双方の長所と短所を比較検討し,どちらを選択するか再考する必要があるかもしれない。2つ目は,活動の枠組みに関する問題点である。5―1と5―2から,他者と協働的に学習する本活動の枠組みが,メリットにもデメリットにもなるという表裏一体性を孕んでいることが明らかになった。だが,調査結果からもわかるように,多くの学習者が本活動に対して学習面での有効性を認めている。それは,オンライン上および教室において自身の表現を他者と共有し,それを相互作用の中で問い直しながら自分のものにしていったという実感を持てたからだろう。しかし,学習者にはそれぞれの学習観があり,学習スタイルも異なる。教室の中で全員が常に同じモチベーションで授業に臨むことはあり得ず,学習者同士の関係性はときにセンシティブであり,対応が難しい。例えば,あるクラスでは書き込み内容が「週末○○に旅行した」「友達と△△を食べに行った」などプライベートでの充実した様子が多く,教室でのFBにおいてもそのような話題が多々見られた。そのようなトピックについていけない学習者にとっては,参加意欲が削がれる可能性もある。学習者がどのような意識を持ち,どのような状態であれ,活動に参加する限り,教師がよりよいと考える学習環境を整備し,提供し続けていくことで,学習者の日本語習得過程を支援していけるのではないだろうか。本稿では,「日本語かきこ」活動を行った学習者へのアンケート結果について分析してきた。1章で述べた通り,この活動は,コース全体としては日本語を使って書いたり,読んだりすることを通じて,自己表現およびコミュニケーションができることを学習者に実感させ,日本語を使うことへの自信を持たせることを目指していた。それを各クラスにおいて,それぞれの情況のもとに担当者が詳細な目標立てをし,進め方やFB方法を模索しつつ進めてきたものである。つまり,クラスによって目的と方法は多少異なることから,このアンケート結果を一概に扱うことは少々乱暴なことかもしれない。厳密な評価は,クラスごとに行うべきものであろうが,今回は,コース全体としての評価傾向を把握することを目的として分析してきた。これは,「日本語かきこ」という活動の持つ基本的な機能や特長が受け入れられているのかどうかを,まずは確認することが必要だと考えたからである。アンケート結果からは「日本語かきこ」は学習者にとって4技能を駆使した総合的な言語活動であるのみならず,コミュニケーション能力を培い,他者とのやりとりを通して自らの言葉の学習を振り返ることができる活動であったことがわかった。その活動を有効なものにした要因としては,オンラインでのやりとりと教室でのFBという一連の活動によって協働的な学びが起こっていたことが挙げられるだろう。本実践では初級レベルの学習者を対象としたが,互いに書き込みや写真を共有し,それをもとにディスカッションすることはどのようなレベルでも有益な活動となり得る。デジタルネイティブ世代の学習者63

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