早稲田日本語教育実践研究 第2号
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(3)クラスメートとのコミュニケーションの活性化(4―2―5)。これはしかし,単に誤用の添削訂正を受けたことのみの評価ではない。「書き込早稲田日本語教育実践研究 第2号/2014/45―64「FBとディスカッションはよい。先生とクラスメートが一緒に問題を解決し楽しめる」となったが(4―2―4),それに対してFB時の誤用訂正が有益であったという回答も多かったみをクラスで見てディスカッションし,新しい語や文法構造について話すのはよかった」,いうような評価記述からうかがえることは,すなわち,クラスでのディスカッションを通して,共に考えながら誤用訂正が行われたことの有益性である。従来行われているeラーニングや,通常の作文活動とは異なり,FBの場で書き込みをクラス全体で取り上げることが,「日本語かきこ」の特徴である。オンラインでの共有とは異なる意味で,FBの場が共有する意義というものの実感をもたらしている。FBは「自分の間違いをチェックし,自分が理解出来なかったことを他の人の書き込みから学べるからよかった」というように,自分の誤用のみならず,クラスメートのものも全体で共有する場として教室が機能している。このような共有の場を持つことにより,クラスメートから新たな語彙や表現を学んだり,一人で読んでも理解できなかった内容について確認したりすることができる。そして,自分の書き込みだけではなくクラスメートの誤用も,誤用訂正のやりとりを含めて共有する機会や自身の学習を振り返るきっかけとなり得ていると言える。このディスカッション,やりとりにより協働的な学びが生まれていると言えよう。それが,学習者が感じた手ごたえとして,アンケート結果に現れたものであろう。書き込みやFBを通して学習者同士が各々の考えや経験を知り,共通の話題にすることでクラス内のコミュニケーションの活性化が促される。多くの自由記述回答に,その楽しさや充実感に言及するものが見られた(4―2―5,4―2―7)。ディスカッションすること,話すこと,話すことを通してのクラスメートとのつながりが文法・語彙の定着や誤用訂正に役立つという回答や,書き込み時には内容がクラスメートに興味をもってもらえるか気をつけるという回答などでは,明らかにクラスメートを意識して「日本語かきこ」に取り組んでいたことがうかがえる。「みんなを楽しませる」「クラスメートにとって興味深い内容かどうか」「みんなに難しすぎなくて面白いかどうか」「みんなとつながること」「他の人との関係性」など(4―2―4),他者を意識した書き込みは,オンラインで完結するものではなく,教室でのFB時のやりとりを念頭にしていたという可能性もある。なぜならFBにおいてこそ,そこでのやりとりという実文脈での口頭表現が求められるからである。このように,学習者の書き込み,すなわち各々の発信する言葉をやりとりし,共有するという活動は,文型積み上げ式シラバスでの授業における教科書を基にした練習とは異なり,自分たちから発信する言葉の構築である。教室で対面してのディスカッションを通して初めて互いが理解されることも,実際の場面では起こっていた。教室におけるFBでのディスカッションは,実体的な理解を,コミュニケーションを通して手にする機会であった。書き込みとFBという一連の活動は,このような意味におけるコミュニケーションを重ねる活動であったと言えるだろう。また,書き込み時に気をつけたこととして回答された「書き込みでは誤っているかもしれない文法もあえて使ってみる。それが正しいかどうかはあとで判るから」という記述か60

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