注 1) 川口(2012b)によると,「個人化質問」とは,文型練習などで教師が学習者に質問多賀三江子・林 麗/「個人化作文」における自己開示の分析7.今後の課題できることを実感したからではないかと推測する。アンケートからも分かるとおり,学生全員に「深い自己開示」が見られたのは「叱られず,笑われず,無視されない,自由な表現空間の保証」(川口2011b)がされていたことが大きいと思われる。また,学生A・D・Eの日本語能力は決して高いものではないが,作文における自己開示の側面から見れば,自分が伝えたいことを表現しようとする努力による進歩がみられた。「自己開示は適応的な対人関係を築いていくための社会的スキルの一つの側面と考えることができる」(松島2004:18)のであるとすれば,外国語教育の場でも,学習者が自己開示のスキルを身につけられるように,よりよい授業を探求していくことが我々教師の役割であると考える。本稿では,筆者らが採用した教授法とその他の教授法の比較を行っていないため,教授法の差異と自己開示との直接的関係は述べることはできない。また,各学生の性格やバックグラウンドに合わせた細やかな指導法を再考し,どのようなタイプの学習者に対しても自己開示を積極的に促せるように更なる実践の研究が必要である。なお本稿では,初級クラスの日本語に特化したが,中・上級レベルのクラスでも,そのレベルに応じた「個人化」表現による自己開示や他者理解の方法を考えなければならない。そして,A&T(1973)の見解「(2)独自な内容の開示」や「(3)目に見えない側面の開示」は,明確な基準を設け,更に詳細に分類する必要がある。また,本稿の分析は執筆者のみで行った結果である。客観的分析をするためにも,筆者以外複数の判断者による照合が必要である。以上の課題は,今後取り組んでいきたい。を連発しながら応答させ,自己の情報を開示させていく質問のことである。2) 川口(2008:17-18)によると,「個人化作文」とは,学習者の思想・感情・経験を表現させることを目的とし,またただ作文を書かせるのではなく,書いたものを学生に読み上げさせて,他の学習者同士がその内容を理解できるようにするなどして他者理解につなげる活動である。3) A&T(1973:18)によると,「独自」とは「個性(uniqueness/personality)」のことである。4) 縫部(2001:205-222)によると,教師の「間接的行動」とは,学習者の情意面に働きかけ,援助的関係を発達させ,学習者意欲を向上させる行動のことであり,「促進的態度・行動」とは学習者の行動・活動・交流が円滑に行われるように援助することである。また,フィードバック行動には「間接的行動」と「促進的態度・行動」は,欠かせないと述べている。5) 川口(2008:11)によると,テスト/クイズのときに最高得点を取った者(チャンピオン)にクラスの前に出てきて,お礼のスピーチをさせる活動である。高得点が取れない学習者に対して公平でないので,チャンピオンになれなかった者から1名43
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