早稲田日本語教育実践研究 第2号/2014/25―446.まとめ己」,「精神的自己③志向的側面」の順に多いことがわかった(「図2」参照)。榎本(1997:48)によれば,人が一番開示しやすいのは,趣味であるそうだが,本研究では「知的側面」が多い。これは学生の身分を反映しており,日常の問題で身近なことであるからだと推測する。「⑫趣味,趣向に関する側面」「⑨物質的自己」「③志向的側面」は,学生が「嫌なこと」を書くより「興味のあること,楽しいこと」や「現在の目標」を書きたい,または書きやすいと考えているためだと思われる。インタビュー時,学生B・Fは「『嫌なこと』を書くより『楽しいこと』を書くのが好きだ。興味を持っていることを書くほうが楽しい。」と述べている。これは,「精神的自己②情緒的側面」のネガティブな面を表す作文はほとんど見られなかったことからも読み取れる。また,④⑤⑥の「身体的自己」は教室という環境で書くテーマとしては難しいため作文該当数は少なかったと考えられる。「支持的風土」をより醸成させ,「精神的自己②情緒的側面」も書けるようになると,更に深い「内面的自己開示」ができるようになったと言えるであろう。研究目的①については,学生全員に「深い自己開示」が見られた。特に,学生B・D・E・F・G・Hは時間が経つにつれ,深さが深まったといえる。学生A・Cには最初から一定の「深い自己開示」が見られていた。全員,それぞれ思い悩んでいることや,悲しかった経験を繰り返し述べたりして,深く記憶に残っている幼少時の思い出などに,「深い自己開示」をしていた。研究目的②については,学生H以外全員,自己開示の幅は徐々に広がった。自己開示の領域は学業などの「知的側面」や,個性を表す「趣味,趣向に関する側面」などが多く見られた。「情緒的側面」のネガティブな感情,「身体的自己」については書きづらい傾向にあることが分かった。最終の授業後に行ったアンケートでは,「個人化作文」に対して,学生全員が賛同していることが分かった。また,8名(複数回答可)が「長い文が書けるようになった」,6名(複数回答可)が「文が早く書けるようになった」「作文を書くのが好きになった」と回答している。学生Bは授業の当初,作文を書くことが面倒だと言っていたが,「作文は面白い,書くのが好きになった」と答え,学生Cは「他の学生の意見を聞けるのが面白かった」と答えている。これらの結果は「支持的風土」が醸成された環境で,日本語で自己開示がから将来についてのビジョンを話すのが好きであった学生Hには,特に書きやすいものであったと推測する。次に,全体でどの項目の自己開示が多いか,表すため,表6の項目番号の個数を図2に示した。自己開示の領域は,「精神的自己①知的側面」についてのものが一番多く,続いて「社会的自己⑫趣味,趣向に関する側面」,「社会的自己⑨物質的自42図2 ESDQの項目番号と作文該当数
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