早稲田日本語教育実践研究 第2号
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多賀三江子・林  麗/「個人化作文」における自己開示の分析日本に来たばかりの時,成田空港で昼ご飯を食べていた時,わさびはポテトチップスと思いました。そして,わさびが全部食べました。とてもわるい感覚でした! これからわさびがきらくなりました。No.21「私が持ってきたもの②」去年の冬休,(中略) 私は北海道旅行のお土産にこのオルゴールを買いました。このオルゴールはかわいくて,ちいさいです。(中略) 私はこのオルゴールを彼女にプレゼントにあげるつもりです。これはロマンチック小樽で買って,とくべつはいみがあります。彼女がもらったら,うれしいと思います。そして,毎日おんがくをきいて,きれいな光を見て,私に思います! 彼女が好きかどうか,たのしみです!Bは,No.10の作文の頃から,作文を書くのが苦痛であると筆者に伝えてきた。No.1〜6までは,Bの作文には,A&T(1973)の「深い自己開示」は見られなかった。松島(2004)でも,No.12までは,No.7を除いてすべて,×(該当番号のないもの,以下省略)か「表面的自己開示」しか見られなかった。No.7は「私の失敗」というテーマの影響から,「内面的自己開示」に該当する内容が書きやすかったと思われる。しかし,授業内では,積極的にクラスメートに質問するようになり,No.12の頃から,作文にも頻繁に「深い自己開示」が見られるようになった。No.12では,「生まれ変わるならパンダになりたい」というユニークな内容を書いている。これはA&T(1973)の(3)にあてはまる。「パンダに生まれ変わりたい」というだけでなく,パンダになった気持ちまで詳細に書いてある。また,No.20では,わさびと記述しているが,たくあんをポテトチップスだと思って食べたコミカルな経験を書いている。これはA&T(1973)の(3)(4),松島(2004)の(8)にあてはまると考えられる。またNo.18では思い出の品としてマフラーを題材にして,自分の恋人について述べている。この頃から,授業内の活動の中でも,恋人についての発言は増え,No.21では,北海道旅行で,恋人のことを思いやる気持ちを書いている。これらは,A&T(1973)の(3)の「動機・感情」が一部現れていると考える。丹野・下斗米・松井(2005:71)では,「恋愛」というテーマは親密段階が初期より後期に現れるとしている。また榎本(1997:73)は「恋愛や異性に関すること」は「話したいと思ってもなかなか話す相手のいない話題」と位置付けている。このように最初は作文に対しての抵抗感があったBであったが,徐々に「深い自己開示」を示すようになった。学生CNo.5「私の町」私は◎◎◎から来ました。◎◎◎はとても大きいしゆうめいだしそれにたくさん人がいます。(中略) 私は◎◎◎が好きですが,ほかのところにすんでいたいです。◎◎◎はうるさいし,天気もわるいしそれにひっこしたいです。No.7「私の失敗」小さい時,クリスマスのプレゼントを忘れてしまいました。私はとけいをもらいました。プレゼントの中で,このとけいは一番好きだったプレゼントです。毎日とけいをつけていました。それに,学校にとけいをもらっていました。つまらない時,とけいを見ていました。毎週ミュージックのクラスがありました。きょうしつの中にとけい35

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