早稲田日本語教育実践研究 第2号
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多賀三江子・林  麗/「個人化作文」における自己開示の分析3.研究の目的4.研究方法集団が形成されることを「内集団化」としている。これによってクラスには,成員である学習者間の(2)援助的対人関係の形成(ラポール)を促進する「支持的風土」が醸成され,学習者は情意的に安定して相互交流ができ,言語習得が進み,更に前述の(3)教師の間接的行動等によっても,「支持的風土」の醸成を促進させることができるとしている(縫部2001:190-222)。2―3 日本語教育の場での自己開示得丸・大島(2004:142)は,留学生と日本人学生との作文交換活動がより「深い自己開示」を引き出しうる活動であるとしている。しかし,この作文交換活動は,1つのテーマに限定して書かれたもので,長期にわたり教室の雰囲気を「支持的風土」に醸成させ,ラポールを形成させるといった観点からのものではない。また,全(2010a,b)は,会話データを基に韓国人日本語学習者の自己開示の特徴や日本人と韓国人の自己開示の対照研究を行っている。しかし,全(2010a,b)は,データ分析のみで,自己開示や他者理解を促進するような実践的な研究には至っていない。一方,川口(2011:39)は,「『支持的風土』を持つ教室の中で学習者が自己開示と他者理解を行って,積極的に『内集団』における相互交流に参画する力」が重要であるとし,縫部(2001:190-222)の説に賛同している。また,その自己開示と他者理解を促すものとして,用意しているものが「個人化」活動である。更に,「『個人化』活動において,学習者が,他の学習者や教師とともに,自己開示と他者理解を並行して行えるような機会を与え,かつそれを妨げるような『防衛的風土』が発生しないように」(川口2011:39)努めることが重要であると述べている。初級日本語クラスにおいて,自己開示の重要性を説き,それを教室活動としてデザインし,具体的に打ち出しているのは,川口のみである。「2.先行研究」では自己開示の外国語教育においての必要性を記した。また,心理学の成果と同様に,教師と学習者は,セラピストとクライアントの関係に値し,自己開示の深さや広がりが特定の項目の存在から記述できるのであれば,自己開示の実態を明らかにすることが可能である。そこで,本稿では「文脈化」「個人化」の理念を採用した教室活動で,「個人化作文」を分析対象とし,以下2点について,明らかにすることを研究の目的とする。① 「深い自己開示」や「内面的自己開示」が見られたか。見られたとしたら,どのような自己開示が見られたのか。② 自己開示の領域は広がったか。また,どのような領域について自己開示が行われたか。なお,本稿の「自己開示」の定義は,言語的なものに焦点を絞っており,「自分はどのような人物であるかを他者に言語的に伝える行為」(榎本1997:ⅳ)とする。本稿の筆者2名は,本学で,2012年9月下旬から2013年1月末までの1学期間,川口29

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