早稲田日本語教育実践研究 第2号
30/102

早稲田日本語教育実践研究 第2号/2014/25―442.先行研究表させる。このような授業構成で進めていくうちに,川口(2012b)は,学習者が自己開示を他者理解につなげていくことができるために「支持的風土」が自ずと醸成されてくることが常態となり,叱られず,笑われず,無視されない自由な表現空間が保証されると述べている。「支持的風土」とは,「お互いの個性を尊重し,容認し合うような教室の雰囲気」(縫部2001:186)のことである。また,川口(2011:37)は,「自分にとって真実で有意味で,重要なことが何か,それを自分自身で考え,まず自分について表現して,目標言語で交換し合う『リアルコミュニケーション(縫部2001:188)』が自己開示と他者理解を促す」と述べている。本稿の筆者は,川口(2011)の提唱するような授業運営をした場合,実際に,どのようにして「支持的風土」が醸成されてくるのか,また「自己開示と他者理解はどのように促されているのか」に興味を持ったが,川口自身も,その検証を自身の論文などで行っているわけではない。そこで,本稿の筆者2名は,2012年9月から2013年1月まで,早稲田大学日本語教育研究センターで,総合日本語2の授業を担当する機会を得たので,川口の提唱する授業運営にしたがって「文脈化」「個人化」の理念を採用した授業を行い,「個人化作文」から,どのような自己開示がなされたかについて,いくつか検証を行った。本稿は,その検証をまとめたものである。2―1 自己開示世の中には,何事に関しても率直に話す人もいれば,親しくなってもなかなか本音を明かさない人もいる。このように自分をさらけ出すかどうかということを,初めて自己開示の概念として,研究し始めたのがJourard, S. M.(1959)である。現代心理学では,自己開示は社会的にも,精神的健康増進のためにも重要であるという議論がある。例えば,榎本(1997:27)では「自己の内面的な世界を他者に知らせるという行為は,社会的な存在としての人間には欠かすことのできないものであり,誰もが日常いたる所で経験していることである」としている。また,松島(2004:1)は「自分にとって重要な他者に十分自己開示ができることは健康なパーソナリティにとって必須条件であり,自己開示が身近な人間関係の中でなされていれば,健康なパーソナリティを維持し,発展させていくことができる」としている。(1983)は,セラピストとクライエント(カウンセリングにおける患者)の関係において「大部分のセラピストは(中略)クライエントが抑圧した感情を探求するためにはラポール(セラピ26Derlega & Chaikin(以下,「D&C」)図1「人間関係の進展の3つの段階に対応する自己開示の幅と深さ (D&C 1983:104)」を加工したもの

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る