早稲田日本語教育実践研究 第2号
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Analysis of self-disclosure in personalized essays in elementary JSL class1.はじめに多賀三江子・林  麗/「個人化作文」における自己開示の分析要旨25多賀三江子・林  麗自己開示は社会的に重要な行為であり,外国語教育においても,その重要性が支持されている。川口(2011)は,自己開示を促進させる教室活動として「文脈化」「個人化」の理念を採用した授業を行い,その理念に基づき「個人化作文」を用意している。筆者は,日本語初級クラスの学生8名の「個人化作文」22本を対象に,「深い自己開示」や「内面的自己開示」が見られるか,見られたとしたら,どのようなものか,また,領域の広がりや種類はどのようなものか,について検証を行った。分析の枠組みは,Altman & Taylor(1973)の見解,榎本(1997)の「ESDQ」,松島(2004)の「内面的自己開示」である。その結果,個人差はあるが,全員に「深い自己開示」が見られ,領域に関しては,広がった学生が多く,「知的側面」についての自己開示が多く見られた。これは「支持的風土」ができたことに起因すると考えられる。キーワード:自己開示,個人化,文脈化,支持的風土,ラポール論 文川口(2012a:18)は,現代の初級日本語教授法を批判し,一般的に広く行われているように,オーディオ・リンガル・メソッドの文型のパターンプラクティスで表現形式の定着を計り,コミュニカティブ・アプローチのロールプレイなどで,実際の使用場面を想定した機能表現を練習するという折衷的な教授法では,学習者は教師が用意した練習やロールプレイで学習するしかなく,学習の主体性や,個々の感情・経験の表出は考慮されないと指摘している。そして,このような状況を改善するための新しい教授法理念として「文法項目の学習をそのまま自己表現につなげる」ことの必要性を述べている(川口2012b)。それには「文脈化」,すなわち特定の文法項目を「だれが・だれに向かって・何のために」使うか分かるように「教室の文脈を活用し導入・提示すること」と「個人化」,すなわち口頭・文章の表現の内容を学習者個人の思想・感情・経験が現れるものにする工夫の二つの指導理念が必要(川口2012b)と主張している。川口(2012b)のそのような理念を採用した授業が,早稲田大学日本語教育研究センターの初級クラスで行われている。川口(2012b)によれば,その授業構成は,以下のとおりである。①「出席ゲーム」と呼ばれる「導入・説明」により「出席を取る」という「教室の文脈」を活かし,未習文型を導入する。このとき,メタ言語による説明はしない。②「個人化質問1)」をする。③「個人化作文2)」を書かせる。④「個人化作文」を口頭または板書で発「個人化作文」における自己開示の分析

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