早稲田日本語教育実践研究 第2号
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注 4) Lee(2006)の分類に習った。1) 全員3年以上の教授経験があったが,日本語を教えた国はそれぞれ異なる。萩原章子/日本語学習者によるEメール作成対し相手の社会的位置や立場を考慮した依頼文を書く場面もあるが,本研究に参加した第二言語話者の場合は,面識のある人物を対象としたほうがより現実味を持って文章作成に取り組むことができたであろう。今回の研究で用いたやり方では,日本語を学ぶ学習者に読み手を意識させることは不十分であった。学習者は読み手を配慮すること以外に,日本語での適切な表現について学ぶことも求められていた。今回の振り返り質問票だけで,この二つを同時に適切に行うことは難しい。よって実際に読み手を考慮した二段階文章作成を行うためには,第一段階として日本語での依頼文の具体例を見せ,どのような表現が日本語の依頼文として適切であるかを考えさせた後で作文をさせ,第二段階で読み手への配慮を促し必要な改善点を考えさせた後,作文を推敲させるといった目的別の分け方が求められる。本研究ではこれら二つの区別が明確でなかったので,今後は区別を明確にしたうえでの二段階文章作成の効果の検証が望まれる。また前述のように本研究は参加者が少人数であったため,統計による検証ができなかった。よって将来的には人数を増やして新たに効果を検証する必要がある。また,志望動機に関しては振り返り質問票で記入するよう促されていたのにかかわらず,修正しなかった学習者もいた。学生が質問票に注意を払っていなかったためなのか,あるいは志望動機は不必要であると判断したのかは今回の研究では不明である。このような,学習者が見直し提案を取り入れなかった理由を考察することが,第二言語使用者の書き手と第一言語使用者である読み手との視点の違いを明らかにする手掛かりとなりうる。第二言語での規範を守るように一方的に学習者に持ちかけるだけでは学習者は「読み手」を意識するようにはならないだろう。学習者の立場や考え方を尊重し,学習者に第一言語との違いを認識してもらうことが,学習者の文章作成の向上につながっていくと考える。2) 3名とも米国の大学レベルでの日本語四年次に相当するクラスを履修済みであった。自己申告によると,いずれの学生も授業以外の改まった状況で日本語を使用する機会はない。3) しかし書いた同じ文章でも読み手によって異なる受け止められ方をする場合が見受けられた。誤用研究は今回の研究の主題ではないので,本稿では誤用の重篤性の問題は扱わないことにする。5) 簡潔さへの注意を喚起するために,「何か削除した方がいいことはありますか」の代わりに「読み手の負担にならないように簡潔にまとめましたか」という問いかけをすることも考えられたが,予備調査に協力した日本語母語話者の中で簡潔さに関する指摘をしたのは一名のみであったので,本研究の質問票には簡潔にまとめることを促す指示は加えなかった。参考文献佐々木倫子(1995)「依頼表現の対照研究―英語の依頼表現」『日本語学』14号,61-68.21

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