早稲田日本語教育実践研究 第2号/2014/9―24と変化するかを観察した。本研究は参加者が少人数のため一般的な傾向を導きだすことはできないが,二段階書き作業は学習者の内省の促しに一定の効果的があることがうかがえた。それは,振り返り質問票を与えられなくても,自分が書いたEメールの内容を振り返った後,志望動機や適切な副詞を書きくわえた学習者がいたことからもうかがえる。そして,書き手中心の段階では気が付きにくいと予想される項目,例えば学習者の第一言語である英語では用いられない「ところで」「実は」等の話題・段落の変化を示す接続詞・副詞を明示的に示したことで,学習者の書き直し作業が促進される傾向も確認した。これ効果を支持する結果となった。しかし,どの程度「読み手への配慮」を明示すれば書き手の気づきと訂正に結びつくのかは,今後も検証が必要である。本研究で得られたデータを検証すると,「あなたは(項目)を考慮しましたか」という問いかけのみでは,学習者の気付きを促すのに十分でない事例もあった。それは,自分の第一言語での基準や表現の影響を受け,「宜しくお願いします」の代わりに「感謝します」「ありがとうございます」を用いた例や,読み手の負担を考慮する必要性をわかってはいても,第二言語で用いられる典型的な表現を知らないために「忙しかったら全然大丈夫です」や「出来れば…て下さい」のように,読み手への配慮が足りない表現で終わってしまう例が見られたことからも明らかである。今回の研究に参加した学習者にとって最も困難だと思われるのは,不要な部分をそぎ落し簡潔にまとめる作業であった。本研究の学習者は足りない情報の付け足しによってEメールを改善しようと試みた一方,不要な部分の削除を試みたケースはほとんど見られなかった。実験群の学習者は,気づきを促すための質問票に「何か削除した方がいいことはありますか」という問いかけがあったのにかかわらず何も削除しなかった。よって学習者にとって自分のEメールの余分な部分を判別するのは困難だと推測できる5)。Chen(2006)では,学習者が簡潔に書く必要性を見い出し自分の文章も簡潔に書くようになるまで約2年かかっていた。Chenは,学習者の改善が起きた最大の要因は,学習者自身がEメールのやり取りを長期間続けたことにより,徐々に第二言語での適切な表現や構成を理解できるようになったことだと結論付けた。つまり「読み手中心」への書き作業に移行するには,「あなたは(項目)を考慮しましたか」という問いかけだけでは不十分であること,学習者が数多くの適切な文例に触れる必要があることを示唆している。二言語教育においても有意義であると考えられる。学習者は教室外で頻繁にEメールを作成する機会があることを考えれば,教師の添削なしで読み手を意識した文章を作成する試みは,長期的に学習者が第二言語で目的を達成するのに役に立つと考えられる。読み手を意識した文章作成を実現させるには,明示的な指導と数多くの例に触れる機会のどちらも必要であろう。そして学習者に読み手を意識させるためには,架空の人物ではなく面識のある人物を選んだ方が負担が少ないと思われる。ビジネスでは,全く面識がない人物にはHyland(2007)が提唱する,学習者が念頭に置くべきことを目的別に明示する指導の6.今後の課題とまとめFlower(1979)が提唱する書き手中心から読み手中心へ移行する二段階文章作成は,第20
元のページ ../index.html#24