早稲田日本語教育実践研究 第2号
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萩原章子/日本語学習者によるEメール作成5.考察たが,その先生が忙しかったら書かなくてもよいことを強調すると,書いてくれるなら誰でもいいという間違った印象を与えかねないことを憂慮していた。適切な締めくくりに関しては,依頼の文であるから「よろしくお願いします」と書くべきだという記載が3人の回答に見られた。学習者Fに関しては,振り返り質問票を与えられたのにもかかわらず第一稿と第二稿の変化があまりみられなかった。学習者Fは,負担の軽減する表現を,「ありがとうございます」の代わりに「よろしくお願いします」と書くことだととらえていた。質問票には「お忙しい場合は書いてくださらなくても構いません」のような具体的な負担を軽減する表現の例が示されていなかったため,「よろしくお願いします」のみでは読み手の負担の軽減につながらないことに気が付かなかったと考えられる。そして,志望動機について記述したかを問う振り返り質問票の3に関して,学習者Fは「十分な情報を提供したと思うが,今情報シートを見直してみると,解釈を間違えたかも知れないところに気がついた。「日本の会社」は,日本で設立された米国に所在する会社のことだと思っていた。もしこれが日本に所在する会社を意味するなら,メールの書き方を変えて,先生に日本語で推薦状を書くようにお願いしたと思う。」と回答した。学習者Fは恐らく質問票に記載されている質問をよく読んでいないため志望動機について言及しなかったと考えられる。全体的に実験群の学習者の気づきを喚起したのは,前置き・挨拶文と話題・段落の変化を示す言葉についてだった。この二つは英文のEメールで用いられる表現とは大きく異なることから,学習者にとって第二言語の基準に合わせて書くための指針になったと考えられる。「負担の軽減する表現の有無」に関しては,日本語での具体例があれば,学習者の気づきを促した可能性がある。本研究ではFlower(1979)の提唱する二段階書き作業を導入し,意図的にEメール作成を二段階に分けることで,第二言語学習者のEメールが書き手中心から読み手中心へ表6 質問票の項目別回答者19

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