萩原章子/日本語学習者によるEメール作成性における変化である。さらに,第一稿と第二稿の間で具体的にどのような変化が見られたのかを探るために,個々の学習者のEメールを本研究で使用した「振り返り質問票」の項目別に比較検証した。「振り返り質問票」に関しては以下3―1で説明する。3―1.予備調査見直し項目として学習者に提示すべき項目を探るために,日本語教師に対してアンケート形式の予備調査を行った。そしてアンケートで明らかになった内容をまとめ,本調査で使用する「振り返り質問票」を作成した。大学で教えた経験がある4名の日本語教師1)に,3名の日本語学習者2)が書いたメールを読んでもらい,特に肯定的な印象を与えると思われる点と否定的な印象を与えると思われる点,削除または付け足すべき表現につき,自由にアンケートに回答してもらった。学習者には資料1に示す架空の状況が与えられた。米国では,以前指導を受けた教師に推薦状を依頼することはよくあるため,受け入れやすい設定であると考えられる。学習者には制限時間を与えず,分からない語彙があれば辞書を見てもよいという指示を出した。3名のEメールはまとめて各日本語教師に転送された。日本語教師の回答からは,メールから伝わる丁寧さや多少の間違いはあっても「先生の都合でお願いします」のように相手を慮っている表現が好印象を与えたことがうかがわれた。一方問題点としては,挨拶や前置きの言葉がないため唐突な感じがする,文頭の副詞句の使用が少ないため文章のつながりがぎこちない,書いた本人に関する情報や応募する奨学金に関する情報が少ない,などの指摘が出された。また,相手の都合を聞かずに一方的に依頼している印象を受けるという感想もあったが,その理由として文の最後に「よろしくお願い致します」と書くべきところを,母語である英語の影響から「ありがとうございます」と書いてあったことが挙げられていた。これらの日本語教師からの指摘を基に,書き手中心から読み手中心への移行を促すための振り返り質問票を作成した。振り返り質問票の内容は資料2に示す。この振り返り質問票作成後,質問票に含んだ項目の信憑性を再確認するため,米国の大学での日本語教授経験のある日本語母語話者10名と学習者6名に新たに参加を依頼し,前回と同様のタスクを与えた。学習者はこの質問票に回答した後に自己訂正を行なった。学習者のメールに見られる問題点,日本語母語話者のそれに対する反応は共にほぼ初回と共通していることを確認した3)。よって引き続きこの質問票を本調査に使用した。3―2.本調査3―2―1.調査方法本研究にはアメリカの大学で日本語を3年以上履修した経験,あるいはプレースメント試験で同等もしくはそれ以上の実力があると認められた計8名の学部生が被験者として参加した。学習者全員の母語は英語であった。各学習者の情報は表1に示す。日本語学習環境に関するアンケートより,いずれの学習者も教室以外の改まった状況で日本語を使用する機会がないことを確認した。学習者は任意に4名ずつ実験群と統制群に振り分けられた。学習者には,日本の企業でインターンシップをしたいので,以前お世話になった先生あてに推薦状をお願いするという架空の状況を英語で与えた。指示文は資料3に示す。また必13
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