早稲田日本語教育実践研究 第2号
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早稲田日本語教育実践研究 第2号/2014/9―243.調査の概要と研究課題されたり英文に関しての指導を受けたりすることはまずないので,どこが不適切さを知る機会が極めて少ない。よってChenは第二言語学習者に第二言語での基準を明示的に知らせる必要性を述べている。第二言語話者に対する明示的指導の必要性はHyland(2007)も主張している。文章に求められる適切な構成や文体は,何を書くか(課題レポート,志望書,お礼状等)により定まっているので,初めから学習者に第二言語での適切な構成や表現を知らせ,それに沿って書かせるべきだとHylandは主張した。その主張は,書くという行為は社会的な行為で何らかの目的を持っているので,書く目的を達成させるためには,第二言語社会での基準を自覚させるべきだという考えに基づいている。第二言語における適切な構成や表現の明示がなければ,学習者はどうすればいいかわからないまま,目的や基準から外れた文章を書き進めることになるという懸念をHylandは示している。これまでの研究や提案を振り返ると,第二言語話者が適切な文章を書けるようになるには,第二言語において求められる理想的な構成や文体や表現・語彙などを学習者が認識する必要があるという点においては一致している。しかし明示的な指導により学習者の認識をどこまで促進することが可能であるのか,また第二言語で適切だと考えられる表現・語彙を提示することが,実際に学習者の文章作成の改善に寄与するかについては議論の余地がある。Chen(2006)では,学習者が第一言語と第二言語における依頼文の構造の違いに気づきながらも,あえて構造を変えなかったことも,「書き手」の基準から「読み手」の基準へ変化させることの難しさを反映している。本研究ではFlower(1979)の提唱に基づいた書き手中心から読み手中心へ移行を目指す書き作業を行い,書き作業を二段階に分けることにより,読み手である目上の立場をより配慮した内容へ改善することが可能かを検証する。具体的には,(1)第一稿の見直し作業によって,学習者の文章にどのような変化が起きるのか,(2)見直すべき内容を明示的に提示された学習者とそうでない学習者の文章にはどのような差異が現れるか,(3)明示的に訂正項目を提示された学習者は,見直し作業の際にどのようなことを考慮したのか,の3点を研究課題とする。今回の調査では特に,先行研究で第二言語学習者の問題点として取り上げられている依頼文を取り上げた。実際に目上へ依頼文を書くにあたっては,第一言語・第二言語にかかわらず手引書やモデル文を参照しながら同様の表現を自分の文章に取り入れて書くことが多いと考えられる。自らの問題点への気づきは,手引書を読むことによっても可能だと考えられるが,本研究ではFlower(1979)の提唱に基づき,あえて学習者にまず自分の伝えたいことを書かせ,書いた後で問題点を意識させることを試みた。産出させることで第二言語学習者の問題意識を活性化させる手法はSwain(1985,1995,2005)によって提唱され,広く認識されている。本研究では,学習者にまず自らの力で書かせることは,自分の伝えたいことに集中させることと問題点への気づきを促すことの二つの役割を担う。明示的に見直し項目を提示することの効果を調べるために,学習者を見直し項目を提示された実験群と自らの考えのみで見直しを行った統制群に分け,それぞれ群の学習者のEメールを比較した。比較した項目は,Eメール文の量と正確12

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