Email composition by learners of Japanese: From writer-based prose to reader-based prose萩原章子/日本語学習者によるEメール作成要旨1.はじめにMatsuda, 1997)。Matsuda(1997)は,書き手が第二言語使用者の場合,書き手自身は適萩原 章子本研究では,学習者が目上にあてた依頼Eメールの書き直しによる変化を検証した。学習者は自分の母語文化の基準を用いて文章を作成する傾向にあるため,第二言語における不適切さに気が付きにくいこと等がこれまでの研究で報告されている。読み手の視点が欠けているために起こりやすい問題を解決すべく,本研究はFlower(1979)の提案に基づき,書き手中心から読み手中心への文章作成を目指す二段階書き作業をEメール作成に取り入れた。目上へメールを書く際見落としがちな項目を明示的に提示された群と何も提示されなかった群に学習者を分け,それぞれの群の文章が書き直し前後でどのように変化するかを観察した。その結果,いずれのグループも学習者の多くは何かを書き加えることで文章の改善を試みたことが明らかになった。学習者の依頼メールは段落の変化を示す言葉の使用が少なく依頼の表現が直接的で,書き足しに伴い誤用も増加する等の傾向も観察された。キーワード:二段階文章作成,Eメール作成,明示的指摘,依頼文,気づき論 文改まった状況において文章を作成する場合,書き手は自分の意図を伝えるという目的以外にも,文章の正確性や言葉遣いなど考慮しなくてはならないことが多い。改まった文章作成の困難さは日本語習熟度の問題に起因するだけでなく,文化的相違も大いに影響すると考えられる。読み手が期待する文章の内容・構造は文化によって異なるため,異なる文化背景を持つ第二言語学習者にはその違いが見えにくい(Ramanathan & Kaplan, 1996; 切な文体を用いて書いたつもりでも,読み手に文章が否定的にとらえる可能性が高いことを指摘した。それは,読み手は無意識の内に読み手自身の第一言語文化において最も適切な文体や構成を期待して読むので,書き手自身の「適切な」文体が,読み手にとっては不適切に映る可能性があることを示唆している。よって,第二言語学習者にビジネス文書や目上への手紙等の作成を指導する際には,目標言語の形式や習慣が学習者の母語の基準に反する可能性を指摘した上で,読み手の期待に応え得る文章を意識させる必要がある。しかし読み手を意識した文章作成は,母語で文章を作成する書き手にとっても認知的負担を伴う。Flower(1979)は,そのような認知的9日本語学習者によるEメール作成―書き手中心から読み手中心へ―
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