●3牛窪隆太/留学生は日本語授業をどのように位置づけているか図1 エレーヌの日本語環境マップ論 文3.調査手順と方法3-1.データ収集調査は「日本語環境マップ」の作成,インタビュー調査の順で実施した2)。インタビュー調査は,授業後の時間を使い,時間の都合上申し出のあった一組を除いて,各学生に対して個別に30分から40分の半構造化インタビューとして行なった(2011年1月)。「日本語環境マップ」は,心理学において小沢(2002,2003)が日本人大学生の居場所とアイデンティティを考察対象として行なっている教育実践を手がかりに,本調査に応用したものである。留学生活における日本語使用環境と授業の位置づけの見取り図を留学生自身に書いてもらい,それをインタビュー調査の補助として使用することで,授業の位置づけが明らかになるとともに,留学生たちがこの授業をどのような場であると認識しているのか,より深い話を引き出すことが可能であると考えた。また,図を用いてインタビューを実施することで,日本語ですべてを説明しなければならない留学生の負担を軽減させる狙いもあった。日本語環境マップはインタビュー実施の際に作成を依頼した3)。インタビューでは,まず,日本語環境マップをもとに,留学生活において日本語を使用する環境を説明してもらった。その上で,自身の留学生活において大切な場所(自身にとって大切な場所,日本語学習にとって大切な場所)を指定してもらった。その後,自身の日本語学習について話してもらいながら適宜質問を行ない,留学生活における日本語使用の環境と自分にとって大切な場所,授業やクラスメイトとの関係について,多様な観点から話してもらうことを心がけた。インタビュー実施時の発話はICレコーダーで録音した上でメモを取り,文字起こしや分析の際に参照した。実際に留学生が描いた日本語環境マップの例が以下のものである。エレーヌ(仮名)は,日本語専修課程に所属し,寮生活を送っていた留学生である。エレーヌが描いた図では,日常会話と授業が対置され,授業から日常会話に矢印が伸びている。エレーヌは授業で基礎を勉強し,日常会話で使うとしている。学内のサルサ・サークルに所属しており,その他にも大学で知り合った日本人や外国人の友達との場所が主な日本語使用の場であるという。外国人の友達とは,日常的に一緒にスポーツジムに行ったり観光したりし,大切な場所ではあるが,自分にとっては,映画やテレビ,サークルなど日常会話を取り囲む複数の場所が大切な場所であると答えた。日本語学習では,日本人の友達との場が一番大切な場所であり,教科書で読ん
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