●44向上が認められた。したがって,素材の難易にこだわらずともシャドーイング実践によってアクセント習得が促される可能性が示された。また,本実践ではシャドーイング中に意味を理解するのではなく,音の高低に注目することを学習者に指示したが,この方法がアクセント向上に有効であったと考えられる。シャドーイングは,即時的処理を連続して要求する課題であるため,意味理解の処理を行いながら音の高低などの音声特徴を処理するのは至難の業であり,アクセントなどの音声習得を促すためには,意味にとらわれずに音声に注目することが重要である。したがって,アクセント習得を目的としたシャドーイングは,プロソディー・シャドーイングによって音声に注目することが大切で,意味に注目するコンテンツ・シャドーイングとはしっかり区別することが必要と言えよう。さらに,本調査においては,シャドーイング実践と並行して,授業でアクセント知識の導入を行っているが,アクセント習得のためには,知識との連動(戸田・大久保2011)が重要になる。そのため,授業でシャドーイング実践を行うのと並行して,アクセント知識を導入したことで習得が促されたのではないかと考えられる。本調査結果から,授業中に行った週に1回,10分程度の実践方法「リスニング1回,意味確認,シャドーイング2回,振り返り」によって,アクセント習得が促されたことが確認できた。本調査結果からみえてきた重要点を以下に述べる。1) 毎回の授業でアクセント指導のために長時間を割く必要はなく,短い時間のシャドーイング実践を継続していくことが重要である。2) 学習者の日本語レベルや,語彙,文型の既知・未知に関わらず,学習者の興味やクラスの目的に合わせた素材を自由に選ぶことができる。3) シャドーイング練習が何を目的としているのかを学習者に理解させ,アクセント習得であれば音の高低に注目させることが重要である。4) ただ,やみくもにシャドーイングさせるのではなく,アクセントに関する基礎知識の導入が必要である。教師がこれらの点を考慮することによって,どの日本語レベルでも一般的な日本語授業において短い時間でのシャドーイング実践が可能となり,アクセント習得を促していくことが期待できる。シャドーイング実践は,学習者が一つ一つのことばのアクセント核を覚えるという負担を軽減し,シャドーイング実践の継続によって少しずつ自然なアクセントを覚えていくことができるという点でも有効な方法と言えるだろう。本研究では,一般的な日本語授業でシャドーイングを実践することを目指し,効果的な実践方法を提案するために,シャドーイング実践を行った。今後は,本研究成果を踏まえ,実際に一般的な日本語クラスでシャドーイングを実践し,本実践方法の効果を検証していきたい。また,本研究は様々な母語を持つ学習者が混在する教室における効果的なシャドーイング実践を目指したため,母早稲田日本語教育実践研究 第1号/2013/37-476.まとめ7.今後の課題
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