早稲田日本語教育実践研究 第1号
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●40本節では主にシャドーイング練習とアクセントに関する研究を取りあげる。阿・林(2010)は,モンゴル語・中国語を母語とする日本語学習者を対象にシャドーイング練習による効果を検証するために,以下の3つの目的で実験を行った。1)日本語のシャドーイング練習時の音声は,音読・リピーティング時の音声とどのような違いがあるか,2)その効果は学習者の母語によって異なるか,3)その効果はどのような音声的特徴に現われやすいか,である。アクセントに関する実験結果として阿・林は次のように報告している。1)モンゴル語話者・中国語話者ともに,シャドーイング練習時にアクセント型の正確率が上昇するが,練習後の音読では再び元のアクセントに戻る傾向が見られたこと,2)母語の違いによりシャドーイング練習で修正されやすいアクセント型が異なること,3)シャドーイング練習は,超文節レベルであるイントネーションとともにアクセント型に効果が現われやすいこと,などである。また,唐澤(2010)は,タイ語を母語とする日本語学習者1名を対象に短期間のシャドーイング実践が学習者の発音にどのような変化をもたらすかを検証するために,コンテンツおよびプロソディー・シャドーイングの練習を10日間実施した。実験は,シャドーイング練習の前後に協力者に音読・録音してもらい,その2つの音声を比較検討するというものである。データ収集は,全10日間のうちの後半の5日間で行われた。その結果,アクセントにおいては,誤用が減少し,シャドーイング練習による改善が確認されたと報告している。戸田・大久保(2011)では,学習者にシャドーイング練習の自律学習を促した場合,どのような気づきが生まれるかを調査したが,気づきの内容を分類した結果,「アクセント」「イントネーション」「単音・特殊拍」の順で多かったと述べている。また,授業で導入した日本語の音韻知識がシャドーイング実践における気づきを促すということを明らかにしている。先行研究では,様々な母語話者に対し,シャドーイング練習がアクセントの改善に効果的であることを示唆し,学習者においてもアクセントに関する気づきが多かったと述べているが,アクセント習得に繋がったかどうかは明らかになっていない。アクセントが習得されるということは,学習者がシャドーイング練習によってそれぞれの語のアクセントを把握し,シャドーイング素材の中だけでなく,実際の様々な場面に現れた同一の語を正しいアクセントで再生できるかどうかということである。そのため,シャドーイング素材以外の場面でも,それぞれの語を正しいアクセントで再生できるかどうかを検証する必要がある。本研究はアクセント習得のためのシャドーイング実践の有効性を検証し,一般的な日本語クラスでも実践可能なシャドーイング方法を提案することを目指す。そのため,以下の二つを目的とする。Ⅰ. 異なる日本語レベル(初級・初中級・中上級)のクラスにおいてシャドーイングを実践し,実践によって学習者がアクセントを把握し,シャドーイング素材の中だけでなく,その素材以外の場面に現れた同一の語を正しいアクセントで再生できるかどうかを検証する。Ⅱ. 日本語授業におけるシャドーイング実践方法を提案する。早稲田日本語教育実践研究 第1号/2013/37-472.先行研究3.本研究の目的

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