早稲田日本語教育実践研究 第1号
31/96

(A)日本・日本語に関連する職に就くことを希望しており,学習目的が明確に示されている記述(B–1)アメリ,(B–2)マイテは,「将来像との日本語の関連づけ」が「憧れの段階」であった。(B) 日本・日本語に関連する職に就くことを希望しているが,学習目的が明確に示されていない(C–1)マリナ,(C–2)リザは,1学期開始時より「将来像と日本語の関連づけ」が欠如していた。●27山内 薫/フランスの国立大学における日本語ポートフォリオ作成活動論 文という状態にあった。そのため,「近視眼的学習目標」を設定し,学習を行っていた。その後,2学期終了時には,日本語が話せるようになること,漢字知識の獲得,そして日本文化の理解という「重層的学習目標」を設定していた。C–2 リザ(女性,20代,3年次)リザは,日仏混合家族の一員としての生活の中での「日本語との必然的な出会い」により日本語学習を開始した。自身の将来像が不明確であったため,「将来像と日本語との関連づけの欠如」という状態にあった。そのため,学士号の獲得及び日本語知識の獲得を重視した「近視眼的学習目標」を設定していた。しかし,その後,「近視眼的学習目標」ではなく「重層的学習目標を設定する必要性への気づき」が芽生えてきた。そして,2学期終了時には「自己を構成する一要素=日本語」と捉えるようになった。その結果,日本語とのつながりを維持することを希求するようになった。 5-2-2.学習者の「日本語学習と自身の人生との関連性」に関するまとめ本項では,5–2–1の表 3で示したサブカテゴリーに即し,「学習者は日本語学習と自身の人生をどのように関わらせているか」を示す。まず,「学習歴ときっかけ」に関しては,日仏混合家族の一員としての生活の中で「日本語との必然的な出会い」により日本語学習を開始した(C–2)リザを除き,ほとんどの学習者は,「日本語との蓋然的な出会い」により,日本語学習を開始していた。次に,「学習目標」に関しては,「将来像と日本語の関連づけ」の程度が,学習目標の設定に関わっていた。以下,「将来像と日本語の関連づけ」の程度と学習目標の設定の関係に関し,(A)(B)(C)の分類ごとに述べる。次の三つのタイプが見出された。一つ目は,「将来像との日本語の関連づけ」に基づき「重層的・中期的学習目標」を設定することにより,「人生中の日本語の位置づけ」を維持するタイプである。例えば,(A–1)ジュリ,(A–2)ルカがそのようなタイプである。二つ目は,「将来像との日本語の関連づけ」に基づき「重層的・中期的学習目標」を設定するものの,「人生中の日本語の位置づけ」を行うまでには至らないタイプである。例えば,(A–3)イヴがそのようなタイプである。三つ目は,「近視眼的目標」を設定することにより,明確であった「将来像との日本語の関連づけ」を徐々に喪失していくタイプである。例えば,(A–4)ローラがそのようなタイプである。記述このような場合,まず,「近視眼的学習目標」が設定される。その後,「近視眼的学習目標」をもとに,「重層的・中期的学習目標」が設定される。(C)日本・日本語に関連する職に就くことを希望していないことが示されている記述このような場合,まず,「近視眼的学習目標」が設定される。その後,「重層的・中期的学習目標」が設定されたり,「重層的学習目標を設定する必要性への気づき」を得たりする。また,「将来像と日本語の関連づけの欠如」には,(C–1)マリナのように日本語を活かした就職への志向がない場合と,(C–2)リザのように自身の将来像そのものが不明確である場合がある。以上の分析の結果は,

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る