(2011)は,学部1年次に在籍する留学生を対象とする読解授業において,ポートフォリオ的手法●21的で現実的な短期目標を持」った上で,自らの「学習内容や方法について選択権を持」ち,「学習活動の計画に積極的に関与する」ような仕掛けを作るための「道具の一つ」とされている(青木,2006b)。独立行政法人国際交流基金編(2010)では,ポートフォリオを,「相互理解のために」必要となる「『課題遂行能力』と『異文化理解能力』」を「育成するために,学習者一人一人が学習過程を記録し,保存するもの」と定義している。また,「学習過程を記録し,ふり返ることで学習成果の評価のツールとして使うことができ」るとしている(p. 22)。黒田他(2011)では,「日本語学習ポートフォリオ(試作版)」が「留学生が日々の日本語学習・日本語使用に関する全般的・長期的な記録を継続的に蓄積し,蓄積した情報をもとに,自らの学習を振り返りつつ,新たな学習を主体的にデザインするためのシステム」(p. 2)として構想及び運用されている。3-2-2.ある一つの授業における個々の学習者の日本語学習を対象とするポートフォリオ「ある一つの授業における個々の学習者の日本語学習を対象とするポートフォリオ」は,教室活動において,学習者一人ひとりの学習の実践(教師から課された課題の遂行,授業の予習・復習等)を記録するために作成されるポートフォリオである。各学習者の目標設定と達成過程を記録として可視化することにより,学習者の自律的学習能力の向上が目指される場合が多い。このような「ある一つの授業における個々の学習者の日本語学習を対象とするポートフォリオ」の例として,舟橋(2005),土屋(2008),里見(2011),三門(2011)が挙げられる。舟橋(2005)は,日本の大学の学部の留学生を対象に,自由会話による教室活動において,各学習者の目標設定と達成過程の確認をとおした自律的学習を目指し,「カリキュラムの内容に即した,査定のためのタスクを教師側がデザインし,最終評価を下す Assessment portfolios」(p. 3)が導入された実践を行っている。土屋(2008)は,日本語学校に在籍する大学,大学院への進学を希望する学習者を対象に,自律学習を目指した教室実践を行っている。各学習者が毎回の授業ごとに自身の学習をふり返ることにより自身の学びについて深く考えること,及び教師が各学習者と学びの過程を共有することが目的とされている。里見(2011)は,フランスの国立大学の学部1年次の日本語学習者を対象に,クラス内の日本語能力のレベル差に対応するため,コース終了後の自律的日本語学習への支援を目的とするポートフォリオの要素を取り入れた語彙学習の実践を行っている。具体的には,「言語的・文化的体験の記録」(学期中に授業外で学習した日本語語彙に関する情報),及び「自己『評価表』」(学期中の語彙学習を自分で評価した記録)をポートフォリオに蓄積していくという実践である。三門を用いた学習活動を実施している。具体的には,専門書(新書)の通読における読解の可視化と予習等の自律的な学習習慣の形成を目的とし,各章の要約と作業ノートの提出が繰り返される。 3-2-3.本論におけるポートフォリオ筆者の実践におけるポートフォリオの用いられ方は,3–2–1で述べた「個々の学習者の日本語学習全般を対象とするポートフォリオ」と3–2–2で述べた「ある一つの授業における個々の学習者の日本語学習を対象とするポートフォリオ」の両方の側面を併せ持つ。まず,「個々の学習者の日本語学習全般を対象とするポートフォリオ」の側面として,自身の日本語学習全般と自身の人生とを照らし合わせることにより,各学習者に「学習者内の多様性」(2–1を参照)の意識化を促すことを目的とし,学習者の「これまでとこれから」と「今」(具体的な目山内 薫/フランスの国立大学における日本語ポートフォリオ作成活動論 文
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