早稲田日本語教育実践研究 第1号
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1)個々の学習者の日本語学習全般を対象とするポートフォリオ●20早稲田日本語教育実践研究 第1号/2013/17-353.ポートフォリオに関する先行研究3-1.ポートフォリオの定義言語教育の分野では,欧州評議会による『ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)』(吉島・大橋訳・編,2004)において,「ヨーロッパ言語ポートフォリオ(ELP)」が提案されたことが,ポートフォリオの本格的な導入を促した。山川(2008)によれば,ELPは「学習者個人が学習記録を自ら記述保管しておくことにより,学習への動機づけ,学習効果を高めようという考えに基づ」(p. 100)き,提案された。Université de Cergy-Pontoise (2008)は,ポートフォリオに関し,次のように説明している。ポートフォリオは,決して,それぞれに関連が無い多数の資料が置かれるようなファイルではないし,無論,軌跡や省察のない作品の寄せ集めでもない。学習者の成果の整理保存の場以上の,省察とフォローアップ,そして評価の場である。ポートフォリオは,単なる成績表からは程遠いもので,学習者に,彼らの学習における前進を評価し続けうるダイナミックな手段である。(p. 3)(筆者訳)また,モリニエ(2008)は,ポートフォリオの有効性について,「①意味をもたらす学習を行なうこと,②学習者としての自分を熟知すること,③自分自身の学習の歩みに責任を負うこと」(p.22)とまとめている。そして,ポートフォリオは,「『最新』の教育パラダイムの普及を具現化するものである:学習のツール」であり,その意義として,「①知識を共に構築すること,②教師,学生,及び制度が一貫して協働すること」を挙げている(p. 24)。3-2.日本語教育におけるポートフォリオの運用近年,日本語教育においても,資料を蓄積し,資料をもとに省察する手段として,ポートフォリオが用いられるようになった。日本語教育において運用されているポートフォリオは,次の二種類に分けられる。2)ある一つの授業における個々の学習者の日本語学習を対象とするポートフォリオ 3-2-1.個々の学習者の日本語学習全般を対象とするポートフォリオ「個々の学習者の日本語学習全般を対象とするポートフォリオ」は,学習者の日本語学習全般を,学習者一人ひとりの人生と照らし合わせて作成されるポートフォリオである。例えば,学習者が「目標」を設定する際には,日本語授業だけではなく,学習者の生活全般と日本語学習との関わりが考慮される。また,「これまで・現在・これから」という人生全体における日本語学習の位置づけに基づく中長期的目標が設定された後に,短期的な目標が重層的に設定される。このような「個々の学習者の日本語学習全般を対象とするポートフォリオ」の例として,青木(2006a),独立行政法人国際交流基金編(2010),黒田他(2011)が挙げられる。青木(2006a)では,日本在住の日本語非母語話者を対象とし,ヨーロッパ言語ポートフォリオ(ELP)をもとにした『日本語ポートフォリオ』を提示している。『日本語ポートフォリオ』は,学習者が「長期的な目標と具体

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