早稲田日本語教育実践研究 第1号
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●18の人生とのつながり」を省察しながら学習に取り組めるようになることを目的とする日本語ポートフォリオ(以下,「ポートフォリオ」)作成活動を実施した。本研究では,「ポートフォリオ」の記述を分析することにより,次の二点を明らかにする。(a)学習者は日本語学習と自身の人生をどのように関わらせているか。(b)学習者は大学の日本語授業をどのように位置づけているか。分析の結果を踏まえ,「ポートフォリオ」作成活動を次の二つの観点で考察する。①「ポートフォリオ」作成活動は,多様な日本語学習者がそれぞれに独自の「日本語学習と自身の人生のつながり」を省察する機会の一つとなっていたか。②「日本語学習と自身の人生のつながり」を省察することにより,学習者はどのように変容する可能性があるか。2-1.フランスの国立大学に在籍する日本語学習者の状況フランスの国立大学に在籍する日本語学習者の学習目的は,非常に多様である。国際交流基金(2011b)には,60%以上の学習者が挙げた学習目的として,次の八つが挙げられている。①日本語そのものへの興味,②歴史・文学等に関する知識,③コミュニケーション,④マンガ・アニメ等に関する知識,⑤国際理解・異文化交流,⑥政治・経済・社会に関する知識,⑦日本留学,⑧将来の就職。同様に,フランスの日本語学習者を取り巻く文脈,すなわち,学習経験,学習条件,学習背景,学習環境等もまた多様である。筆者が勤務していた日本学科においても,日本語学習者は,日本学に関する専門的な知識の獲得,日本・日本語に対する興味,教育学への関心,日仏混合家族からの影響等,多様な学習目的・背景を持っていた。例えば,竹内・山内(2011)は,大学で日本語を学ぶ学習者が多様化する傾向にあることを指摘している。学習目的・背景が多様であることにより,日本語学習者の日本語学習に対する態度や日本語学習の形態・方法は,学習者により異なる(「学習者間の多様性」)。また,「学習者間の多様性」は,一人ひとりの学習者に内在する,過去や未来の多様な自己により発生する。一人ひとりの学習者は,言語や文化に関する独自の多様な過去の経験と独自の未来への展望を抱きつつ,日々の生活を送っている。また,現時点に留まることなく,常に変容する動態的な存在でもある(「学習者内の多様性」)。それでは,このように多様な日本語学習者を対象とするフランスの国立大学における日本語教育は,実際にどのように行われているのであろうか。 2-2.フランスの国立大学における日本語教育の現状と問題点本節では,フランスの国立大学の常勤言語講師であった筆者の観察に基づき,フランスの国立大学における日本語教育の現状と問題点を述べる。フランスの国立大学の学士課程の修業年限は,基本的に3年6学期である。学士課程の外国語専門コースには,LLCE(Langues, Littératures et Civilisation Etrangères:外国語・外国文学・外国文化コース)とLEA(Langues étrangères appliqués:応用外国語コース)の二種類がある。例えば,筆者が勤務していた日本学科には,外国語に関する研究者の育成を目的とするLLCEが設置されている3)。LLCEとは,学士課程の3年間において,主専攻である一言語を媒体として,言語学,文学や文化等,その言語が使用されている言語圏について総合的に学ぶ学科である。日本学科において早稲田日本語教育実践研究 第1号/2013/17-352.日本語ポートフォリオ作成活動実施の経緯

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