●17山内 薫山内 薫/フランスの国立大学における日本語ポートフォリオ作成活動筆者は,フランスの国立大学に在籍する日本語学習者を対象に,学習者一人ひとりが,「日本語学習と自身の人生のつながり」を省察しながら学習に取り組めるようになることを目的とする日本語ポートフォリオ(以下,「ポートフォリオ」)作成活動を実施した。そして,次の二つの観点で「ポートフォリオ」の記述を分析した。(a)学習者は日本語学習と自身の人生をどのように関わらせているか。(b)学習者は大学の日本語授業をどのように位置づけているか。その結果,「ポートフォリオ」作成活動が,「日本語学習と自身の人生のつながり」を省察する機会の一つとなっていたことがわかった。キーワード:日本語ポートフォリオ,フランスの国立大学,学習者内の多様性, 日本語学習と自身の人生のつながり論 文1.研究の背景と問題意識□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□要旨Aiming for Japanese language education designed for diverse learners論 文Japanese language portfolio activities in a French national university:現在(2009年調査時),日本国外の日本語教育を行っている機関に所属する日本語学習者は,365万名を越え,増加する傾向にある(国際交流基金,2011a,p. 1)。フランスの日本語教育を行っている機関に所属する日本語学習者は 16,010名で,その約半数にあたる 7,975名が高等教育機関(83校)に在籍している(国際交流基金,2011b)。フランスの国立大学では,ここ十数年,日本文化及び日本語への関心を背景に,日本学科への入学志望者が増加する傾向にある。日本学科に入学するにあたり,入学志望者が日本や日本語に関する知識を問われる機会はなく,入学を志望しさえすれば誰でも入学できる1)。そのため,多くの日本語学習者は,日本や日本語への漠然とした興味や関心を主な動機づけとし,日本学科に入学し,日本語学習を始める2)。そして,自分が何のために日本語を学習し,身につけた日本語を将来,どのように活かしていくかを省察する機会,つまり「日本語学習と自身の人生のつながり」を省察する機会がほとんどないまま,在学中の3年間を過ごす。自身の将来の可能性として,日本に関わる研究を行うことや日本語を用いた職業に就くことをイメージしている学習者は少ない。その結果,進級率の低さ,日本語学習の放棄,在学中の日本語学習と卒業後の職業の分断といった問題が発生している(これらの問題に関しては,2–2で詳述する)。このような状況の改善を目指し,筆者は,フランスの国立大学に在籍する日本語学習者を対象に,学習者一人ひとりが,「日本語学習と自身フランスの国立大学における 日本語ポートフォリオ作成活動―日本語学習者の多様性を考慮した日本語教育を目指して―
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