早稲田日本語教育実践研究 第1号
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6) 日本語授業の実用的な位置づけに関連して,有田(2009)は,戦後の日本語教育が「実用性●14 キストにおいても明確にするため,一人称にあえて「私」を使用する。2) 調査は所属機関設置の研究調査倫理委員会の承認を受けて実施された。調査協力者に対しては事前に研究内容が知らされ,データ使用に関する許諾を受けた。3) シートには,「日本の留学生活で,日本語を使う環境(生活,友達,サークル,アルバイト,授業など)を示す図を書いてください」という指示文が記載されている。4) インタビューのトランスクリプト中,「***」は固有名詞,「↑」は上昇イントネーションでの発話,「※」は注を示す。5) 学習者の期待やニーズに応えることは,現在,日本語教育実践の価値として位置づけられるものでもある。例えば,牛窪(2012)は,日本語教育学で発表された論考を検討し,学習者の多様化への対応を背景に,教育実践を語る際に教師が使用する「ニーズに応える」という用語が,教育的配慮を示す用語から教育実践の目的を語る用語へと変化していることを指摘している。主義」から出発している可能性を指摘している。パーマーのオーラル・メソッドは,当時の日本語教育の現場を担っていた「実践家」によって日本語教育に導入され,戦後,再構築される過程で,「実用性主義」として現在の日本語教育の出発点に位置づけられるようになったという。その上で,有田は,無定義の実用性を重視する日本語教育では,逸脱や新しさの創造が認められず,既存社会の規範に従わせる教育としての作用を否定できないとしている。7) この勉強会の詳細については,牛窪他(2012)で取り上げた。参考文献有田佳代子(2009)「パーマーのオーラル・メソッド受容についての一考察:「実用」の語学教育をめぐって」『一橋大学留学センター紀要』12,27–39.牛窪隆太(2012)「教育実践に位置づけられた学習者ニーズの課題―『日本語教育』掲載論考の検討から−」,『多摩留学生教育研究論集』第8号,1–9.牛窪隆太・梅津聖子・江原美恵子・古賀和恵・山本実佳(2012)「既定カリキュラム内における実践研究と教師の同僚性」,『2012年度日本語教育学会実践研究フォーラム予稿集』,104–107.小沢一仁(2002)「学びの支援の自己理解教育実践「大学生の心理学」を居場所及びアイデンティティの視点から捉える」,『京都大高等教育研究』8号,59–74.小沢一仁(2003)「居場所を知ることから自らのアイデンティティをもつこと」,『東京工芸大学工学部紀要』Vol. 26 No. 2,64–75.佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法 原理・方法・実践』新曜社三代純平(2009)「留学生活を支えるための日本語教育とその研究の課題―社会構成主義からの示唆」,『言語文化教育研究』7&8,65–99.三代純平(2011)「「場」としての日本語教室の意味―「話す権利」の保障という意義と課題」,『言語教育とアイデンティティ』春風社,75–97.Morita, N. (2004) Negotiating Participation and Identity in Second Language Academic Communities. TESOL QUARTERY Vol. 38, No. 4, 573–603.早稲田日本語教育実践研究 第1号/2013/1-15

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