●13注 た。留学生たちは基礎知識を得る場として,あるいは学習のペースメーカーとして,実用的な価値を日本語授業に与えている6)。日本語教師として教室に参加する以上,これら留学生の授業への期待を完全に無視することはできない。しかし一方で,そのような学習者の期待は教師の教育行為の正当性を示す根拠とはならないだろう。インタビューにおいて留学生たちは,教室におけるクラスメイトとの関係性から「学習効果」が生まれることを認識していることがわかった。そして,関係性の要因として「授業形態」や「雰囲気」があげられ,授業の『価値づけの要因』として「教師の存在」があげられている。このことからは,教師が日本語学習を教室の関係性に重ね,自身の授業形態を変えていくことで教室の疑似性を払拭しながら,教室の中を一つの現実世界として成立させていくという一つの方向性を考えることができるだろう。まずは教師である私自身が,既存の枠組みを維持,強化するのではなく,自身の教室で生まれる疑似性を乗り越えるための方策を持つことが必要なのである。本稿では,教育現場における問題意識から実施した調査の結果をもとに,日本語授業に生まれる関係性の問題について検討した。留学生活の中に日本語教育を位置づけるためには,日本語教育が留学生活に埋め込まれているという当然の事実に改めて注目することが必要であるという(三代,2009)。留学生に正しい日本語を教える,教科書をシラバスに沿って予定通り進めるといったことは教師にとって当然であるともいえる。しかしそのような当然性が,現在の教師にとっての日本語教育の形を作り上げ,それが留学生にとっての留学生活の実情との間に齟齬をきたしているのであれば,今後,日本語授業のあり方も,留学生にとっての意味の中で再解釈されなければならないだろう。しかしながら,留学生活を視野に入れ,授業の当然性を見直しながらそのあり方を再考していくことは,実施される日本語コースの一端を担っている教師一人の力だけでは,到底及ばないことも事実である。そこで,本調査を実施した次の学期から,教育機関内の同僚教師数名と読解授業の勉強会7)を立ち上げ,得られた成果を自身の授業にも還元してきた。既定の学習項目の定着を目指すのではなく,留学生の関係性の中に置きなおすための活動を考え,実際に授業に取り入れることによって,教室に集まる留学生たちの関係性にも変化を感じている。今後,この勉強会で得た,学習項目の定着という前提を教師があえてずらしていくことの意味をさらに検討していきたい。また,今回の調査では日本語授業における日本語の学びが教室外の世界とどのように関わっているのかという点について具体的な検討はできていない。合わせて今後の課題としたい。付記授業改善のために,学期末の忙しい時期にインタビューに応えてくれた留学生の皆さんに記して感謝します。1) 本研究は,教師である筆者自身がよりよい教育実践の探求を目的として,自身の教育実践に集まった留学生を対象として行なう実践研究である。教師としての筆者の立ち位置を研究テ牛窪隆太/留学生は日本語授業をどのように位置づけているか論 文7.今後の展開
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