早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●90早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/85-105次回,話し合う必要がある事項:テーマ,形態を明確にする。/今後のスケジュールを立てる。/作業の進め方を検討する。→提出された予定を見て,上記内容が入っていなければ,こちらから提案する。(090604授業記録_ミーティング)パラパラと出てきた意見を取り上げ,整理しつつ,一つひとつ何かを決定して進めていくためには,要所要所で担当者のほうから何らか道すじを示す必要があるのかもしれない。(090528授業記録_コメント)途中途中でぶつかる問題をどう捉え,どう解決していくのか,という点を立ち止まって考えることにつながるような問いかけをするという形での関与のしかたもあるか。しかし,それは学生が主体的に活動を進めていくこととどう関わるだろうか。(090423授業記録_コメント)携わってきた経験からの影響もあったと推測される。「総合活動型日本語教育」では,テーマのもとになっている学習者の問題意識を深く掘り下げていき,その過程で学習者が自身の価値観を見出していくことが目指される。「総合活動型日本語教育」における経験から,私たちは,「09春」においても,テーマのもとになっている問題意識を深く掘り下げていくことを重視していた。そのため,自分たちの問題意識に基づく討論会を行うことについてたびたび説明し,また,上述の「同性結婚」というテーマについてもそのテーマで討論する意味を問うた。以上三つの理由により,私たちはクラス活動に大きく介入した。私たちの介入により討論会のテーマは変更され,新たに提案されたテーマのもとになっている問題意識をめぐって話し合いがなされた。その結果,イベントは問題解決に向けてイベント参加者が話し合うという形態になった。つまり,私たちの介入はクラス活動の方向性を軌道修正することへとつながったのである。このように,私たちはクラス活動の目的に即した軌道修正を行う役割を担う存在として,クラス活動に関わっていた。直接クラス活動に関与・介入しないまでも,クラス活動の展開の予測,予測に基づくクラス活動の内容,及び関与・介入の検討を私たちは毎回のミーティングで行っていた。ただし,関与・介入を想定していても,クラス活動の展開次第で行わない場合も多かった。上記と同様,直接的な関与・介入を伴わない行動として,私たちはクラス活動を進めていくための仕掛けの検討もしばしば行っている。以上のクラス活動の展開の予測,クラス活動の内容や関与・介入,及び仕掛けの検討は,いずれもクラス活動において生じる問題の解消に向けた行動と言える。私たちは,問題解消を図るのは担当者の役割という認識のもと,いかにして問題解消を図るかを常に考えつつ,クラス活動を見守っていた。しかし,クラス活動に関与・介入したり,問題解消を図ったりすることは,学習者が主体的にクラス活動を進めて行くこととの対立をはらんでいる。そのため,担当者主導になることへの懸念がつきまとい,しばしば介入・非介入の狭間で葛藤が起こった。以上述べたように,私たちは「09春」において,基本的にはクラス活動の見守り役というスタンスをとりつつ,環境整備,注意・確認・アドバイス,クラス活動の方向づけ,軌道修正,問題解消を行う存在として,クラス活動に関わっていた。しかし,一方で,そうした存在として関わることは,学習者の主体的なクラス活動への参加を阻害することへとつながるのではないかという危惧も抱き,どのような存在として関わるべきかを常に議論していた。

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