早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●891)については,クラス活動開始当初より,ディベートを行うと誤解している学習者が見られた。3)については,すでに述べたように,私たちは問題解決のための討論会を行うことを目的とし古屋憲章,他/クラス担当者の実践観,教室観,教師観はどのように変容したか前に立っていると進行係のようになってしまうと思い,以上を説明した後,私と三代さんは一番後ろの席に移動。(090416授業記録_授業内容)特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文ていた。4-1-4.2009年度春学期「イベント企画プロジェクト」における教師観の変容「イベント企画プロジェクト」において,私たちは,学習者がクラス活動の中で生じる問題をクラスのメンバーとの協働によって乗り越え,学習者自身で解決していくことを重視した。問題が起きた際に担当者が介入することは,学習者が主体的に考え,行動することを阻む結果につながりかねない。そのため,私たちは,「イベント企画プロジェクト」における担当者はクラス活動に極力関与・介入せず,見守り役を担う存在であると捉えていた。そこで,クラス活動開始直後に次のような行動をとった。しかし,「09春」をそれ以降と比べると,私たちはクラス活動にかなり関与・介入している。関与には,メーリングリスト(以下,ML)の開設,クラス活動やイベント開催時に必要な備品の準備,司会者等への注意・確認・アドバイス,学習者からの質問に応じる形での討論会のテーマや目的・問題意識に対する考えの表明,イベント終了後の授業において行った担当者主導による振り返りの実施などが挙げられる。振り返りは,クラスでの話し合いに加え,振り返りシートにも記入してもらった。担当者主導による振り返りを行ったのは,経験から学びを見出すためには経験を振り返ることが必要であり,そのような振り返りを促す役割は,担当者が担っていると考えていたためである。以上のように,私たちは関与を通して,クラス活動の活性化や遂行のための環境整備,注意・確認・アドバイス,クラス活動の方向づけを行う役割を担う存在として,クラス活動に関わっていた。介入には,討論会の目的に対する私たちの考えの提示,テーマ決め段階におけるクラス活動の振り返り実施の指示,MLに振り返りのための意見を送ることへの指示がある。こうした介入を行った理由として,次の3点が挙げられる。1)「討論会」ということばから,ディベートをイメージする学習者がいた。2)最初に決まった「同性結婚はどうか」というテーマが問題をはらむものであった。3)学習者の問題意識に基づきイベントを企画・開催することに対するこだわりが私たちの中にあった。そのため,自分たちの問題を解決するためにクラス外の日本人学生や留学生と討論会を行う,という説明を繰り返し行う必要があった。2)については,「同性結婚」に対する偏見や差別意識に学習者自身が気づいていないという問題があった。そのため,どのような問題意識に基づくテーマかという点や,同性結婚というテーマをディベート形式で行うことの是非が議論されないまま企画が進んでいることに私たちは危惧の念を抱いた。そこで,私たちはクラス活動の振り返りを行い,なぜこのテーマで討論したいのか,自分たちにとってこのテーマで討論する意味は何かを考えるよう指示した。ていたことから,どのような問題意識に基づいて討論会を行うのかを明確にしておくことが必要であると考えていた。しかし,問題意識へのこだわりは,私たちが「総合活動型日本語教育」に長く

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