早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●881.で述べたように,「イベント企画プロジェクト」の立ち上げに際し,私たちには大学コミュニ「09春」には,私たちは教室を一つのコミュニティとして捉えていた。そして,コミュニティ形早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/85-105ディベートのように勝ち負けを決めるために討論するというイメージではない。日常生活や大学生活の中で感じている問題や違和感などについて,どうすれば解決できるかを目指して話し合うということを考えていた。解決までいかなくても話し合ってよかったと思えるような議論ができればいいと思う。(090507授業記録_授業内容)クラスがどのようなコミュニティになっていくか,その中で,学生たちは,どのような参加をしていくかを注意深く見ていきたい。(090409TA報告書_今後の課題)一人一人の参加のスタイルと,それに伴う学びの多様性と,コミュニティ全体としての変化,成長のようなものを両方捉えていけるような観察を考えたい。 (090416TA報告書_感想)共有という流れで進行した。イベント後の授業では,担当者主導により,クラス活動の振り返りが行われた。4-1-2.2009年度春学期「イベント企画プロジェクト」の実践観の変容ティにおいて留学生が周辺化されているという問題意識があった。そこで,学習者が大学生活において感じている問題点や疑問点をテーマとしてクラス外の日本人学生や留学生と討論会を行い,問題解決を図ることをクラス活動の目的の一つに据えた。そして,討論会の企画・開催によって,留学生が大学コミュニティに参加できるようになること目指して「イベント企画プロジェクト」を構想した。以下の記述には,こうした私たちの考えが表れている。これは,討論会ということばからディベートをイメージしていた学習者から,討論会では何をするのかを聞かれた際に答えた内容である。このように,問題解決のための討論会を行うことを目的としていたことから,私たちはこの目的を達成するためには,解決したい問題は何かを学習者自身が考え,クラスのメンバーが問題意識を共有する必要があると考えた。しかし,たまたま集まってきた20名を超える学習者が問題意識を掘り起こし,共有していくのは困難であった。そのため,イベントの内容が問題意識やイベントの目的と乖離するという事態が生じた。以上のように,「09春」には,私たちは,「イベント企画プロジェクト」を大学コミュニティにおける留学生の周辺化という私たちの問題意識に基づき,留学生の問題解決のための討論会を開催する場として捉えていた。また,問題解決のための討論会を行うためには,クラスのメンバーが問題意識を共有する必要があると考えていた。しかし,学習者が何もないところから問題意識を話し合い,共有していくことは困難であり,いかにしてそれを実現するかが大きな課題となった。4-1-3.2009年度春学期「イベント企画プロジェクト」の教室観の変容成や学習者のコミュニティへの参加の仕方に着目していた。また,学習者個人とコミュニティ全体の両側面から,学びや成長を捉えていた。以上の記述に示されているように,「09春」において私たちは,「イベント企画プロジェクト」の教室をコミュニティと捉えていた。そのうえで,「イベント企画プロジェクト」の教室は,学習者がクラス活動を通してコミュニティの形成とコミュニティへの参加を経験する場であり,そのプロセスにおいて,個々の学習者,あるいは,コミュニティ全体に学びや成長がもたらされると考え

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