●71.はじめに日本語センターにおける留学生支援システムの展開と今後の構想A Framework of the Support System for International Students要旨黒田史彦/留学生支援システムの構図特集 教室中心主義からの解放/基幹論文黒田 史彦2011年,早稲田大学日本語教育研究センターは,大学院日本語教育研究科と連携しながら,留学生支援ネットワークの総体である「留学生支援システム」を設置した。留学生支援システムでは,早稲田大学に在籍するすべての留学生が日本語学習リソースにセルフ・アクセスすることにより,自律的な日本語学習を実現できる個人的学習環境の創出を目指している。同時に,すべての留学生が留学生サポートにセルフ・アクセスすることにより,自己実現が可能な個人的修学環境を作り出すことを目標として掲げている。留学生支援システムの支援拠点として開設した「わせだ日本語サポート」では,日本語教育学を専攻する大学院生が支援スタッフとして待機し,ナビゲーター,アドバイザー,そして,日本語学習リソースとしての役割を果たしながら支援を行うピア・サポートを実施している。留学生支援システムは,教室の外に留学生のための新しい学びの場を拓くことに挑戦している。さらに,この取り組みを足掛かりとして,自分自身のことを十全に分析し,主体的な学びを継続的に成す姿勢を備えた人間,つまり,生涯に渡って学ぶ姿勢を備えた人間を育む大学空間の創造を見据えている。キーワード:留学生支援システム,わせだ日本語サポート,セルフ・アクセス, 個人的学習環境,個人的修学環境基幹論文日本政府による「留学生30万人計画」の策定を受け,国内の大学をはじめとした各教育機関における留学生は着実に増加し,その多様化も飛躍的に進行している。しかし,急激な留学生の増加と多様化の速度は教育機関の予想を大きく超えるものであり,受け入れ体制の整備が十分に整っているとは言えない。従来は,日本語の教室や授業を増設することによって,留学生の受け皿を確保しようという努力が一般的に行われてきた。しかし,様々な背景やニーズを持つ留学生すべてに満足のいくカリキュラム運営は年々困難となり,もはやこの対処方法は限界に近づいていると言わざるを得ない。このような問題を抱えている教育機関にあっては,問題解決に向けた現実的な次の一手を早急に打たなければならない。専門教育も事務手続きもすべて英語で済ますことができるようなプログラムを大学内に設置すればよいという主張もあるが,留学生は常に学内に留まっている訳ではなく,学外に出て一市民として生活するに際しては,日本語を使用する必要に迫られるのが実状である。したがって,英語に依存するプログラムを設置すれば留学生が抱える問題を容易に解決できるとは到底考えられない。本稿では,教室だけに頼る日本語学習・日本語教育ではなく,英語による教育の享受・提供でも留学生支援システムの構図
元のページ ../index.html#9