●851.「イベント企画プロジェクト」立ち上げの経緯と現在までの過程寄稿論文教室実践の新展開How the Teacher Have Transformed Their Belief of the Value of Education Practice,Classroom and Teacher:私たち1)は,早稲田大学日本語教育研究センター(以下,センター)において,「総合活動型日本語教育」の実践を行ってきた。「総合活動型日本語教育」は,細川英雄により開発されたプログラムである。「総合活動型日本語教育」においては,学習者が個々の問題関心をテーマに選び,そのテーマについて,クラスメイトとの対話を通じて考えを深化させつつ,レポートを作成するという活動が行われる(細川・武・津村・星野・橋本・牛窪2007)。2008年頃,私たちは,「総合活動型日本語教育」を実践しながら,個々の学習者が「自己の問題意識」をもとにレポートのテーマを設定することに次のような違和感を覚えるようになった。学習者がそれぞれ別々の問題意識をレポートのテーマにすることにより,クラス活動としてのまとまりが失われ,主体的にクラス活動に関わることが難しくなるのではないか。また,当時,私たちは,授業等を通じて自分たちが接する留学生から「日本人の学生と話す機会が少ない」という声をたびたび耳にしていた。留学生の声を聞き,私たちは次のように考えた。留学生が日本人学生と話す機会が少ないのは,留学生という存在が大学コミュニティにおいて周辺化されているためではないか。ならば,私たちは,留学生が周辺化を自分たちの問題として捉えると同時に,留学生の周辺化という問題を日本人の学生とともに考えられるような場を創る必要がある要旨古屋憲章,他/クラス担当者の実践観,教室観,教師観はどのように変容したか本研究では,「イベント企画プロジェクト」における筆者らの実践観,教室観,教師観が次のように変容する過程を記述した。実践観:筆者らの問題意識が反映されたイベントの企画・開催を意図する活動からイベントを企画・開催するという仕事を学習者が協働で主体的に遂行する活動へ。教室観:学期ごとに区切られた,固定的で閉じられたコミュニティから時間的な広がりを持ち,空間的に拡張する可能性を持つコミュニティへ。教師観:クラス活動の方向づけや軌道修正,クラス活動において発生した問題の解消を行う役割を担う存在からクラス活動を見守り,「イベント企画プロジェクト」の教室というコミュニティを他の様々なコミュニティとつなげる役割を担う存在へ。また,5学期にわたる実践の過程で絶えず行われていた二つのあり方によるリフレクション,すなわち,実践の現状を把握するリフレクション,実践の構造を把握するリフレクションを行き来することが,筆者らの実践観,教室観,教師観の変容を支えていたことが示唆された。 キーワード:リフレクション,実践を支える価値観の変容,実践の現状の把握,実践の構造の把握特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文Reflection of “Let’s produce an event” for Five Semesters古屋 憲章・古賀 和恵・三代 純平クラス担当者の実践観,教室観,教師観は どのように変容したか―5学期にわたる「イベント企画プロジェクト」のリフレクションから―
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