早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
79/222

●776-3 「自由読書」の方法参加者は授業時間に,どんな文章をどのように読んでもよい。教師と日本人ボランティア数名6)は教室に待機し,参加者から質問があればその都度答える。授業開始時に読書シートを配布し,授業時間終了20分前頃から,参加者はその日に読んだ文章について,内容・感想を記入する。辞書で語彙を調べた場合には,読書シートの裏面に記入する。授業終了前5〜10分には,毎回数名の参加者がその日に読んだ文章の内容について口頭で紹介する。読書教材として,参加者は自分の読みたい本を教室に持参する。クラス活動対象レベルが,初級後半〜中級前半であるため,自身で準備することには困難が伴うことから多読用教材7),小学生新聞8)などはクラスで用意する。また,参加者が自分で読み物を探せるよう,学校の図書室・図書館,付近の図書館や本屋などを紹介する。6-4 先行研究と「自由読書」「自己決定理論」1有能さ/「原因帰属論」前項で記したように,特に非漢字圏の参加者の多くは読解に対する苦手意識が強いが,それは,他者との比較によって形成された可能性が高い。そこで,その苦手意識を打ち消すような有能さを感じるためには,自分よりも有能な他者(この場合は,読むことが得意な漢字圏の参加者)との比較要因をクラス活動から排除する必要がある。「自由読書」においては,どんな文章をどのように読んでもよいため,他者との比較要因がほとんど存在しない。更に「読む」ことの成功体験を作り上げる必要がある。成功体験を得ることは,自らの力だけで読む,普段一斉授業で扱っている文章よりも長い文章や難しい文章を読む,一つのまとまったものを読みきる等によって,可能になると思われる。「自己決定理論」2自律性/「達成目標理論」自律性を保つため,「自由読書」では,参加者自身が読みたいと思うものを自由なスタイルで読む。これにより,参加者は自らの意思で読むもの,読み方に関する全ての決定権を有することとなる。「達成目標理論」の観点からは,「遂行目標」が存在せず,「学習目標」のみとなることを意味している。「自己決定理論」3関係性本クラスでは,「読書シート」並びに「授業終了時の発表」によって,教師,他の参加者との二方向の関係性が形成されている。教師との関係性を保つものとしては,「読書シート」が媒介物となる。参加者は毎授業終了時に内容,感想を書いた読書シートを提出するが,教師はそのシートの日本語を修正したうえで,参加者の感想にコメントを書き翌週返却する。他の参加者との関係性を保つものとしては,「授業終了時の発表」を行う。授業ごとに,数名の参加者が当日読んだ本を紹介する。この発表を聞いて,次に読む本の候補とする参加者も多く,期ごとにクラスに流行が生まれる。熊田道子/「自由読書」特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文

元のページ  ../index.html#79

このブックを見る