早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●755 「読み」を個人のものとするためには4-1-4 アンケート結果4「母語でどれぐらい本を読んでいるか」(選択式)母語で本を読んでいる頻度は,全体に高めである。83%程度の参加者が月に一冊以上読んでいる。特に非漢字圏参加者では,50%以上が一ヶ月に3冊以上読んでいる。つまり,母語においては十分に文章に触れ,読解ストラテジーも身につけているはずの読み手達であることがわかる。Block(1986)によると,第一言語で身につけたストラテジーはどの言語にも転移して利用することが可能である。しかし,結果1.2と併せて考えると,非漢字圏参加者は自分の持てる力を十分に発揮することができていないと推察される。4-2 考察このアンケートにおける前2項と後2項の回答差をもたらしたものについて考察を行う。母語においては,「読むことが好き」(4–1–3)で,読みの頻度も高く (4–1–4),読解ストラテジーも身につけているはずの参加者が,日本語で書かれている文章に向き合うときには,なぜこのようにストレスを感じ,自分の読みが上手ではないと思ってしまっているのかという点について考えてみる。読むことにおいて,苦手意識を感じている参加者は,本アンケートの結果(4–1–1)に関する限り,全員が非漢字圏であり,一方,漢字圏の参加者には,このような回答をした者はいなかった。ここから母語における漢字との親密性の差違が,読みに対する苦手意識の形成に関係が深いことが推察される。しかし,本アンケートに基づいたフォローアップインタビューでは,読むことに苦手意識を持っている参加者のうち,母国で日本語学習をしていた際にも読むことを苦手だと感じていた参加者の割合は12%であり,88%の参加者は,母語を共通とする参加者との読解のクラス活動においては,読むことに対し苦手意識を感じてはいなかった。つまり,非漢字圏の参加者は,漢字圏の参加者,即ち,読むことが上手な他者と同空間において,同時に同じものを読むことによって,苦手意識を感じ,日本語の文章を読むことが難しいと感じるようになると推察される。上記のアンケート結果から推察されることは,読みにおいて,「読みたい」「読むことが好きだ」と考えている読み手に「苦手意識」を与えている大きな要因は,読みの得意な(漢字のよくわかる)参加者達との教室における一斉読解によって起こるものであり,それは他者との比較によって生じている可能性が高いということである。本クラス受講の個々の参加者は個人的には「読むことが好き」であり,日本語においても読むことが上手になれるような読む機会を求めている。よって,上記のような参加者たちのストレスをなくし,彼等の欲求を満たすためには,まず,彼熊田道子/「自由読書」非漢字圏参加者漢字圏参加者50%43%34%43% 9%12% 9% 0%特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文全体48%35%10% 6%一ヶ月に3冊以上一ヶ月に1冊以上3ヶ月に一冊以上6ヶ月に一冊以上

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