早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●710 先行研究寄稿論文教室実践の新展開/「読み」の新展開日本語教育における読解活動は,主に次の二つに大別される。一つ目は,ボトムアップ要素理解重視の読解活動である。この読解活動においては,参加者たちが「正しく」読むことができるための言語知識を養成することが目指されている。このような読解授業では,読解活動は,書かれた文章に全面的に依拠する形で進められる。ボトムアップ要素を重視した読解とは,文字,単語などの小さな言語単位の理解を積み重ねることで,段落,文章といった大きな言語単位の理解へと段階的に処理が進んでいくという考え方である。ボトムアップモデルの代表的なものとしては,Gough(1972)の,One Second of Reading Modelが挙げられる。これは,視覚システムからの情報が文字認識され,音韻情報化,単語の同定,統語的意味処理,文の理解へと逐次理解が進んでいく過程をモデル化したものである。二つ目は,トップダウン的要素の学習を重視する読解活動である。この活動では,読み手の能動的な働きかけを重視し,新しいスキーマを身につけたり,リーディングストラテジーを適切に使えるように訓練することが課題となっている。リーディングストラテジーとは,文章から情報を得たり,蓄積したり,引き出したりするときに読み手が使用する認知手段(Anderson1991)である。リーディングストラテジーには様々な方法があるが,読解プロセスのコントロール,読解のモニタリング,背景知識の利用,テキストとの相互要旨熊田道子/「自由読書」The class which the students have the leadership in reading特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文Free Reading:熊田 道子本稿では,「読む行為は個人のものである」という読解授業観に基づく初級,初中級の読みの活動を報告する。一般的な読解クラス活動においては,「教える者」「教えられる者」「教えられる内容」の三要素の存在が前提となっており,教師主導,教材主導の読解活動が基本になっている。特に,中級以前のクラス活動では,他技能に比べても,参加者は読み方,読むもの共に,自由度の少ない環境で読解活動を行っている。当該クラス活動においては,読解クラス活動の三要素の存在を前提とせず,授業から「一斉」という要素をできるだけ取り除き,参加者に「有能さ」「自律性」「関係性」を感じさせるクラス設計を行った。その結果,漢字圏の参加者との一斉授業で,ストレスや苦手意識を感じていた非漢字圏の参加者は,読みに対するストレスが軽減したり楽しさを感じるなど,心理面でのプラス効果が見られた。そして,教室は読みを保障する場となった。キーワード:自由読書,読解クラス活動における三要素,漢字圏・非漢字圏参加者の混在 心理的不安要因,読みを保障する場「自由読書」―「読み」を個人のものとするために―

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