早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
71/222

●692) 「さまよえる老婆」の本文は,徐京植『分断を生きる―「在日」を超えて』(1997年刊)に3) 本稿に登場する学習者は,全て仮名である。注 6) 過去の履修者クレアによると,この授業を通して自身のテキストの読み方が変わったとい舘岡洋子/テキストを媒介とした学習コミュニティの生成特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文1) 「専有(appropriation)」とは,「他者に属する何かあるものを取り入れ,それを自分のものとする過程(ワーチ2002:59)」をあらわす概念。ワーチは,「専有」を文化的道具を円滑に使用するための方法を知る過程である「習得(mastery)」と区別している。よった。4) 「振り返りシート」とは,毎回,授業の最後に授業を振り返って学習者たちが記入し,提出するもので,教師が作成した。5) ここでの「収奪(appropriation)」は,ワーチ(2002)では「専有」と訳されている。う。「前はテキスト全体の意味というよりも一つひとつのことばの意味が気になり,そのたびに辞書を引き確認しないと読めなかった。しかし,だんだんテキストのメッセージは何か,それに対して自分はどう考えるかと考えながら読み,もっと頭を使うようになった。」という(2010春学期履修者アンケートより)。7) 舘岡(2008)は,同じエピソードを「協働的な学びにおける互恵性」の観点から検討している。8) 本実践は,某私立大学で小説を協働で読んだ実践である。参加できなかった学生について検討するために,この事例を取りあげる。9) 受講者は9名で,毎回,3名〜4名を1グループとして対話による読解活動を行った。1学期間の協働による読解授業の中で,前半5回は評論文,後半9回は小説をテキストとした(うち1回は小説に関するスピーチにあてたため,小説読解は8回)。 10) 1クラスとは,日本語レベルが最も上のクラスである。参考文献舘岡洋子(2008)「協働的な学びにおける互恵性―学習環境のデザインと参加の観点から―」『早稲田大学日本語教育学会2008年春季大会 講演会・研究発表会資料集』(2008年3月29日)1–4.舘岡洋子(2011)「協働による学びがはぐくむことばの力―教室で読むということをめぐって」『早稲田日本語教育学』9号,41–49.西林克彦(2005)『わかったつもり―読解力がつかない本当の原因』光文社新書.刑部育子(1998)「「ちょっと気になる子ども」の集団への参加過程に関する関係論的分析」『発達心理学研究』9,1–11.バフチン,M. M. 伊東一郎(訳)(1996)『小説の言葉』平凡社.バフチン,M. M. 伊東一郎・佐々木寛(訳)(1999)「行為の哲学に寄せて」『ミハイル・バフチン全著作集』第1巻,水声社,17–86.本山方子(2004)「小学3年生の発表活動における発表者の自立過程―「声が小さい」ことの問題化と「その子らしさ」の発見を中心に」『質的心理学研究』第3号,No. 3,49–75.ワーチ,J. V. (2002)『行為としての心』佐藤公治・黒須俊夫・上村佳世子・田島信元・石橋由美訳 北大路書房.

元のページ  ../index.html#71

このブックを見る