早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
67/222

●65第6回目には,ボブは積極的な参加態度でのぞみ,グループメンバーの総意により代表発表者に舘岡洋子/テキストを媒介とした学習コミュニティの生成<メンバーの編成替え→事件>ボブのグループの関係性が悪化していると判断し,教師は5回目の授業では,メンバーの編成替えをした。はじめてドンヒョンとボブが同じグループになった。5人で向き合って座っているのに,ボブだけ横向きに座り,半分話を聞き,半分は自分で予習してこなかった小説の読みをしている。ドンヒョンが「やってきていなくても,聞くだけ聞いたらどうですか。そうしたら,どういう話かわかるから,いいんじゃないですか」と声をかけた。それに対して,ボブは「どうせ聞いてもわからない」と返答。ドンヒョンは絶句してしまった。教師と相談の上,ボブは少し離れた席で自分ひとりで読む(図1参照)。「だから僕は小説は読みたくなかったんだ。でも,みんなが読みたいって言ったから反対できなかったんだ。僕はこの授業に出ないほうがいいんじゃないかといつも思っている……」とひとりごとを言う。ドンヒョンは,ボブの反応に,もうそれ以上助け舟を出すことはできないといった様子をみせる。<昼休みのインタビュー>担当教師(筆者)は,次の授業の前に昼休みにボブを呼んで,インタビューを行った。<参加→成功体験>決まった。実習生Kの観察記録によると,ボブは十分予習してきており,発言も多く内容も深いものであったという。 グループ内の雰囲気は良好で,活発なやりとりがあり,今回はメンバーがよかったと観察記録には書かれている。<参加→写真撮影>ボブは,前回に続いて今回も予習が十分な様子をみせた。話し合いも楽しそうで,授業後には板書を撮影して帰った。振り返りシートには「話し合いがおもしろかった」と記入している。3.2.「問題」はどのようにして生まれたかボブが授業に参加しないという「問題」はどうして生まれたのであろうか。インタビューによると,ボブは読むことに自信がない。うまく参加できない理由として,読むことの遅さと自分の考えがユニークであること,ドイツ語からの直訳の影響をあげている。また,伝える才能が必要であるとも認識している。特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文◆自信がない①  焦って読むと僕は全然……だから読んでもなんかちょっとなんか,あちこちなんか分かっても全体分からない。私はなんか,みんなみたいに中身とか読むことができない。(略)大体内容をまだ全文なんか消化してないから……していないから話し合いもできない。②  まぁ,うまくいけないのは大体僕が原因だと思う,自分が。他の人はできるから,他の生徒はできるから。自分自身が,1回子どもの時になんか1回読めなくなって,読まなくなって,なんか他の読むのはちょっと遅くなったり,理解するのも遅くなった。③  普通は1クラス10)の人は,そんなにそういうものではないと思うので,(略)私みたいな,なんか読書(昼休みインタビュー(7/4))をあまりしないし(略)本を読むことに対しては自信ない。 ◆うまく参加できない理由① 最近,参加もできない。(どうしてかというと)読むのすごく遅い。②  あと,考え方全然違うから,テキストに書いてある内容はちょっと皆と違う意味で分かるのは残念。その内容は違う。なんか僕はその内容分かった。まぁ私にとってその内容の意味は,他の人が考えてる,

元のページ  ../index.html#67

このブックを見る