早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●643.1.授業概要と「事件」の流れボブは,テキストを協働で読む授業8)において,対話によるグループ活動への参加が最初の2回は積極的であったのに,その後うまく参加できなくなった(表1参照)。5回目にはグループから離れて着席し,ひとりでテキストを読むという「事件」が起きた。そこで次の授業前に教師(筆者)はボブにインタビューを実施した。6回目以降はまた積極的に参加するようになった。ボブは,学期全体の出席率が100%の学習者である。ボブの参加問題に関して,①問題はどのように生まれたか,②問題はどのように解決されたかを関係性と参加の点から検討する。使用したデータは,授業記録,実習生の観察記録,学習者の振り返りシート,ボブへのインタビュー(全3回)である。<関係良好→悪化>協働で小説を読む授業の1回目で,ボブのグループはジス,ゼリンの3名でスタートした。1回目終了時の振り返りシートには,ボブ「うまくいった。話がおもしろかったから,みんな楽しめた」,ジス「うまくいった。全員よく参加してくれた」,ゼリン「うまくいった。意見が一致して話し合いが感じよくて楽しかった」と書いている。2回目にも,ボブ「うまくいった。みんなちゃんと予習してきた」,ゼリン「うまくいった。お互いの話に聞き合った」と記入している。ジスは未提出。しかし,3回目にジスは「うまくいかなかった。ユニークな意見が多すぎて摩擦があった。自分の意見しか話さず他の人の意見を聞かないので困った」と記入し,授業後に「ボブは予習をしてこないことが多い。してきたときも意見がユニークすぎて,ついていけない。初めは一生懸命聞いていたけれど,自分の話ばかりして人の話を聞かない。そのうえ,自分が人には理解されないとたえず不満を述べる。ずっといっしょはつらい」と担当教師に話す。ボブは「話し合いが私には短すぎた」と書いている。4回目には,ボブは「うまくいかなかった。時間が短かったから」,ジスは「うまくいかなかった。あまり話をしなかった人がいたから」と記入している。この回では,参与観察していた実習生のSは「ボブは予習をしておらず,ジスさんがかわいそうだ」と観察記録に書いている。早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/57-70ボブをめぐる協働による学習活動事件参加・成功体験参加・写真撮影図1 ボブの離席事件表1 授業と事件の流れ9)授業回テキスト1−2回目キッチン①②関係良好3−4回目キッチン③④関係悪化5回目来訪者①6回目来訪者②7−8回目来訪者③④授業外インタビュー(昼休み)7/4インタビュー(学期末)7/21インタビュー(帰国前)8/4

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