●60第2節では,早稲田大学日本語教育研究センターに設置された中級レベル対象のテーマ科目「ク2.テキストを協働で読むことによって,読み手は何を学んでいるのか早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/57-70協働で読むことを支えるコミュニティの中で,参加者間の関係性と参加とはどのようなかかわりがあるのだろうか。これが第2の課題である。本稿では,次の第2節で,第1の課題についてテキストをめぐる学習者たちのやりとりとその変化を検討し,読み手は何を学んでいるのかを考察する。さらに第3節で,第2の課題について,コミュニティにうまく参加できなかった事例を検討し,参加者間の関係性と参加について考察する。最後に第4節で,他者と協働で読むという実践から見えてきた「日本語の教室」という学習コミュニティにおけることばの学びについて考察する。2.1.実践の背景リティカル・リーディング」の授業を事例として検討する。当該授業では,テキストを読むことによって文法や語彙の知識を獲得したり,読解ストラテジーを身につけたりすることを直接的な目標とはしていない。むしろ,テキストのテーマを自分の問題としてとらえ,他者と対話的に読むことによって,先述したようにテキスト理解,他者理解,自己理解を深め,そのプロセスでテキストを読み直したりテキストのテーマについて思考したり表現したりすることになり,結果的にテキストを読む力がつくことになると考える。そのために,テキストは,意見や主張が比較的明快で,読み手が自分の問題として考えやすいテーマを内包したものが選択される。授業名にある「クリティカル」とは,テキスト内容を鵜呑みにせずに自分の考えをもって批判的に読むということであるが,ただ高みの見物的に批判するのではなく,自分の問題として主体的にとらえ直し,批判的に読み,考えることが期待される。そのような場では,読むという活動は個人がテキストに向かうだけの活動ではなくなり,対話によって他者に開く活動となる。個人の読みを他者に開くことによって,テキストの筆者との対話,それをめぐるクラスメイトとの対話という二重の対話の場を創出することになる。授業目標として①評論文の批判的な読解,②自分の考えや経験とつなぐ(自分の問題として考える),③仲間との意見交換による思考の進化・深化をあげている。1学期間の授業はいくつかのユニットからなる。1ユニットは1テーマで,3コマから5コマかけて行う。ここでは,在日韓国人作家の徐京植による「さまよえる老婆」2)という国をテーマとした作品をテキストとした実践を検討する。授業は以下のような流れで進めた。①から④が主に理解プロセスにあたり,ここに2コマ,⑤⑥が表現プロセスにあたり,ここに2コマ,ユニット全体で計4コマあてた。①テキストを読み,筆者の主張を理解する。②筆者の主張を批判的に検討し,自分なりの意見を持つ。③自己の主張をクラスメイトに伝え,クラスメイトの主張を理解する。④クラスメイトとの対話により,自分の考えを深める。⑤対話をふまえ,「自分にとっての国とは何か」というテーマで作文を書く。⑥互いの作文を読み合い,コメントする。2.2.エピソード1―ボニーとイェニの対話からこのテキストを読んで,筆者にとっての国とは何かを考え,それに対して読み手である自分はど
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