●4緒言特集企画者一同早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/4-6ことばの学習・教育の分野において,「教育中心から学び中心へ」「教師中心から学習者中心へ」といったパラダイム・シフトが起こって久しい。こういった考え方は,現在では,もはや常識として受けとめられている感さえある。しかし,実際には,「学び中心」「学習者中心」を謳いながらも,その理念を十分に体現できていない実践例も少なくない。その原因のひとつとして考えられるのが,実践の場を教室の中だけに限定していることが挙げられる。教室は,「学び中心」「学習者中心」といった理念を実現させる場としてはあまりに窮屈である。まず,教室は,授業時間という枠で時間的に制限されている。そして,教室においては,授業内容や学習方法があらかじめ定められていることが多い。更に,学習者と教師という関係が固定しがちである。近年,「学習者主体の教室空間を創造せよ」「教室の中にある教師と学習者の壁を取り払え」「教室内に(留学生)コミュニティを作り出せ」といった理念に基づく教室実践がいくつか見られるようになった。しかし,これらの実践も,やはり「実践は教室で行われなければならない」という教室中心主義に囚われている。学習者が真に主体性を発揮し,有意義なコミュニティを形成すべきは,教師と学習者という役割が定着している教室の中ではない。このような教室中心主義から日本語学習者を解放していくためには,学習者の教室観・学習観に働きかけようとするだけではなく,留学生の教育や支援に関わる者の教育観・教師観・授業観にも大きな変革を求めなければならない。上述した問題意識にもとづき,私たちは,「教室中心主義からの解放」という特集を企画し,原稿を依頼した。その結果,教室中心主義を手掛かりに留学生の教育や支援に関わる者の教育観,教師観,授業観を問い直す九つの論考が集まった。基幹論文とした三編は,いずれも2011年度に早稲田大学日本語教育研究センターに開設された留学生支援システムに関する論考である。黒田論文は,留学生支援システムの理念や全体像を見渡す論考である。留学生支援システムは,早稲田大学に在籍するすべての留学生が日本語学習リソースにセルフ・アクセスすることにより,自律的な日本語学習を実現できる学習環境を創出し,実り多い留学生活を可能にする大学空間を創造することを目指している。留学生支援システムという構想において,教室は,学習者がアクセスできる様々な日本語学習リソースの一つに過ぎず,中心的な位置を占めていない。つまり,留学生支援システムは,教室をも含めたより広い「学びの場」を留学生自らが主体的にデザインするという意味において,教室中心主義からの解放を志向するシステムである。中山論文は,上述した留学生支援システムの支援拠点である日本語チュートリアル(現在は,わせだ日本語サポートに改称)に関する論考である。日本語チュートリアルでは,大学院生の支援スタッフによるナビゲーター,アドバイザー,そして,学習リソースとしての支援活動を行うピア・特集緒言特集:教室中心主義からの解放
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