早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●521点目の支援システムの名称変更とは,以前までの「日本語チュートリアル」という名称が「教4.おわりに―今後の課題と展望早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/39-54える/教えられる」という印象を与えてしまうのではないかという意見から,「わせだ日本語サポート」という名称に変更されたというものである。2点目の活動場所の固定とは,これまで日替わりだった教室の場所をできるだけ固定できるようにした。さらに,3点目として,支援スタッフを曜日で固定し,各曜日にリーダーをおき,リーダーミーティングを導入したほか,毎回の活動の前後に打ち合わせと振り返りの時間を設定し,その日の活動内容をお互いに共有することとした。4点目として,支援記録のデータ化をしてほしいという要望を受け,支援システム関係者のみを登録したWEB上のページを設け,支援記録をいつでも閲覧できるようにしたことである。5点目は,支援を行う中でぶつかった悩みや問題などを随時,WEB上でやりとりできるようにしたことである。これにより,教職員スタッフと支援スタッフ,支援スタッフ同士の情報の共有を目指し,連携を進めていくことを目指している。6点目は,支援システムでの活動に興味を持っている院生にボランティアとして活動に参加してもらい,次学期以降の活動のイメージを持ってもらうという制度の導入である。以上の改善点は,いずれも事例検討会での議論や提案がもととなっていることからも,今回の事例検討会の実施が支援システムにおいて大きな意味を持っていたと言えよう。以上,本センター留学生支援システムの留学生支援の場である「日本語チュートリアル」における支援の際の行動指針について,理論的背景やこれまでの他大学での取り組みに関する先行事例などから検討し提示するとともに,支援スタッフの育成を目的として行った事例検討会の意義について報告した。事例検討会の実施を通して,継続的・主体的に関わるスタッフの育成とスタッフ間の情報の共有という当初の目的はある程度達成でき,以降の活動に改善点として生かされるなど,一定の成果が得られたものと言える。一方で,スタッフ間での理念の共有の不十分さや留学生の抱える問題への対応への戸惑いなど,今後,経験と検討を重ねつつ改善していくべき点もまた明らかとなった。既述のように,支援システムにおける支援の場を,留学生を発達促進的に支援し,留学生が安心して利用できる場所にしていくためには,実際に支援に当たる支援スタッフの存在が大きい。それだけに,支援スタッフ間での支援の際の行動指針の理解と共有とともに,それに基づいて行動できる支援スタッフの育成は今後も引き続き取り組むべき重要な課題であると認識している。留学生への支援を今後より充実させるためには,支援スタッフの声を傾聴しつつ,その指導・助言にあたる教職員スタッフが共に検討し,協働でシステムを支える仕組みを構築していくことが不可欠である。留学生を支援スタッフが支え,支援スタッフを教職員スタッフが支えるという入れ子状の構造を機能させていくためには,コミュニティのメンバー一人ひとりが,このコミュニティに所属し共に作っていくのだという協働・共生の意識を持つことが必要である。これは,コミュニティ心理学における基本理念の1つである「コミュニティ感覚」を持つということである。留学生への支援を行うことが支援スタッフ自身の人間的成長にも繋がるよう,支援スタッフを支える側として何ができるのかを,今後も継続して検討しつつ,留学生支援のためのコミュニティを共に創出していきたい。

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